メソミルはカーバメート系殺虫剤であり、法医学分野では偶発的な暴露や自殺を目的とした多量服薬事例で検出されるため、血液中の本農薬の定性及び定量検査は死因究明を行う上で重要である。しかしながら、血液中メソミルの検出が困難であると報告されている。本研究ではメソミルの血液中死後分解因子を特定し、特定した分解因子を用いてメソミルの分解メカニズムを明らかにすることで、死後血におけるメソミル濃度評価法を確立することを目的とする。本研究では血液画分を用いたメソミルの血液中死後分解因子の特定、ヘモグロビン(Hb)によるメソミルの分解メカニズムの評価、Hb中アミノ酸付加体形成におけるメソミル濃度相関性の評価、メソミル中毒死者の血液中W-adductの生成量の評価に加えて、他のカーバメート系殺虫剤アルジカルブ、ブトカーボキシム、オキサミル及びチオファノックスについてメソミルと同様にHb中アミノ酸付加体形成するかを評価した。結果、メソミルの血液中死後分解因子はHbであった。分解メカニズムはアミノ酸付加体の形成で、カルバモイル化されたトリプトファン(W-adduct)、チロシン(Y-adduct)、バリン(V-adduct)の三種類のアミノ酸付加体を同定した。W-adductはメソミルを添加したHb及びメソミル中毒死者の血液から特異的に検出され、W-adductを基に算出したメソミル濃度は致死域として適当な濃度であった。これらのことよりW-adductは濃度算出のバイオマーカーとして使用できると考えられた。さらに他のカーバメート系殺虫剤アルジカルブ、ブトカーボキシム、オキサミル及びチオファノックスもHbによって分解されることが明らかになった。その分解メカニズムはメソミルと同様のアミノ酸付加体の形成であった。そのアミノ酸付加体はカーバメート系殺虫剤中毒のバイオマーカーとして使用できると考えられた。
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