研究課題
塩化ベンザルコニウム(BAC)中毒死の確実な法医学的診断法は未だ確立に至っていない。診断法確立のためには、診断基準になり得るBAC経口摂取後の毒性学的情報が必要である。そこで本研究では、BACの毒性発現機序がC12-BACおよびC14-BAC間で異なると仮説を立て、マウスを用いてBACの体内動態と臓器傷害性を炭素鎖間で比較検討し、BACの毒性発現機序と炭素鎖長との関係性を明らかにすることを目的とした。本研究で得られた成果を以下に示す。(1)BACの体内動態(2020-2021年度):市販製剤を模倣したC12・C14-BAC混合溶液、さらにC12およびC14-BAC単独溶液を調製し、それらを致死量域および致死量未満で経口投与後の血中、臓器中および消化菅中の濃度およびその推移を評価した。その結果、経口投与により消化管から吸収されたBACの体内動態は、致死量域および致死量未満で濃度推移が異なるものの、炭素鎖間で明らかな違いは認められなかった。(2)BACの臓器傷害(2021-2022年度):(1)と同様の手法でBACを経口投与し、臓器および消化管の組織傷害性を評価した。その結果、致死量域のBAC経口投与後に多臓器傷害を発現し、さらにはプログラム細胞死の一種であるアポトーシスを伴う急性肺傷害も認められた。しかし、それら現象の炭素鎖間での明らかな違いは認められなかった。以上より、BACの体内動態や臓器傷害は炭素鎖間で同等であり、本研究の手法では仮説通りの成果を得ることができなかった。しかし、本研究遂行により、BAC経口摂取後の新たな中毒機序としてアポトーシスを伴う急性肺傷害を見出し、学術論文として報告した。今後、BAC経口投与後の肺傷害およびアポトーシス誘導機序の詳細を明らかにできれば、法医実務に応用可能な診断基準の確立のみならず、急性中毒時の治療法の確立にもつながると考えられる。
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Toxicological Research
巻: - ページ: -
10.1007/s43188-023-00178-0