倫理審査委員会で承認された本研究の測定対象(2019年4月~2021年12月までに当講座にて解剖した事例)883例の大腿筋肉を対象とし、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS/MS)・ヘッドスペース法のScan・SIM分析により42の腐敗産生揮発成分を同定した。このうちアセトン、イソプロパノール、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒドを高頻度検出成分として選出し、エタノールとn-プロパノールを加えた6種類の成分をSIM分析により定量した。883例を死亡前の飲酒(有・無・不明)分類と、日本法医学会鑑定例概要に基づく7段階のPMI分類に則って群分けした。飲酒無群の各定量値とPMI分類でSteel-Dwass検定を行い、各成分の死後産生を評価した。またエタノールを除いた5成分の定量値ならびにエタノールとの比を用いて、飲酒有群と飲酒無群のClassification Tree解析を行った。統計ソフトはJMP(SAS Institute)を使用した。統計解析は琉球大学医学部保健学科基礎看護学講座生物統計学分野・米本教授の助言を受けて行った。飲酒無群の中で、PMIが短い群に対し長い群で、6成分いずれも有意に高値を示した。n-プロパノールの有無は腐敗指標としては有用である一方検出される割合は低く、またエタノール/n-プロパノール濃度比は一定でないことから、その定量値でエタノール死後産生量を推測することはできないと考えられた。またClassification Tree解析の結果、PMIが2-7日の飲酒有群の多くでエタノール/アセトアルデヒド濃度比が88以上であり、この比が飲酒判定の基準として利用できる可能性が示唆された。
|