療養生活を送る虚弱高齢患者はその多くが血液循環調整に障害があり,背臥位からファーラー位への体位変換時には下肢への血液の移動から循環量が低下し,起立性低血圧を起こすリスクがある.本研究は、起立性低血圧の予防方法としてKubotaらが提案した胸折り(上部体幹屈曲位)ファーラー位姿勢が、より重症な患者が用いるセミファーラー位でも有用となるのか、姿勢の角度が循環器系へあたえる影響を詳細に検討した。 健常成人男女20名(女性11名、男性9名)の循環量を測定した。被験者は前日から激しい運動やカフェイン、アルコールの摂取を避け、当日は2時間前から完全絶飲食の状態で計測に参加した。被験者には、胸部インピーダンス、心電図の電極、及び心音マイクが装着された。姿勢条件は体幹起こす角度が30°、45°、60°のそれぞれで上部体幹を中心に起こす姿勢(以下胸折姿勢)と体幹全体を起こす姿勢、そして仰臥位の9つの姿勢条件で行い、それぞれ10分休憩後の5分間のデータを記録した。 条件角度それぞれで体幹全体を起こす姿勢より、上部体幹を起こす胸折姿勢で循環量が保たれる事が明らかになった。特に上部体幹を30°起こす胸折姿勢は、体幹全体を30°起こす姿勢より、1回拍出量は増加し、心拍数の上昇を抑えられた。この時の左室駆出時間や迷走神経活動の指標となる圧受容器反射の感受性(BRS)は上部体幹を30°起こす胸折姿勢でより増加していた。また、上部体幹を30°起こす胸折姿勢は仰臥位姿勢とほとんど同等の1回拍出量、心拍数、左室駆出時間、BRSとなりえることが本研究により明らかになった。
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