緑膿菌に対し抗菌薬を使用し続けることで耐性化が生じることは、一般的な概念となっている。その耐性化メカニズムは、外膜の変化やポーリンの減少、菌体内に流入した薬剤を排出するエフラックスポンプ、抗菌薬が結合するDNAやRNAなどを変化させる作用点の変化、ペニシリン系抗菌薬を分解するベータラクタマーゼの産生、菌体に薬剤が届きにくくなるバイオフィルム形成などである。一方、消毒薬に耐性の概念はないが、抵抗性を獲得することが知られている。その消毒薬抵抗性緑膿菌のメカニズムの一つに、エフラックスポンプの高発現があることを本研究課題にて解明した。しかしながら、これらの高発現株は、臨床で使用されているクロルヘキシジングルコン酸塩や塩化ベンザルコニウムなどの消毒薬濃度では、殺菌されることも確認した。 本研究は、クロルヘキシジングルコン酸塩や塩化ベンザルコニウムなどの消毒薬に抵抗性を獲得することで、抗菌薬に交差耐性を生じる可能性を検討することである。被験菌株は、臨床分離された緑膿菌60株とした。これらを塩化ベンザルコニウムで暴露することで抵抗性を獲得させた。この塩化ベンザルコニウム抵抗性株を用いて、各種抗菌薬の感受性をディスク法にて確認した。wild strainと比較し、イミペネムの感受性が低下した緑膿菌を3株発見した。これらの株は、エフラックスポンプであるmexABおよびmexEF遺伝子だ高発現していることが分かった。 臨床で使用される消毒薬濃度が不十分な場合、緑膿菌が生存することとなり塩化ベンザルコニウムに抵抗性を獲得すると同時に抗菌薬のイミペネムにも耐性化を示す可能性が懸念される。臨床場面において、このような現象は報告されていないが抗菌薬暴露以外による耐性菌の出現可能性を見出した研究となった。
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