本年度は、前方視的研究を継続した。前方視的研究の対象者は、当院においてがん治療を実施する患者であり、主に入院患者を対象に継続した。リクルートを継続し、50名程度の初回データを集積し、30名程度の縦断データを重ねることができた。しかし、新型コロナウイルスの影響により、前方視研究の開始が当初の予定より大幅に遅延した影響、さらには5類に移行後も病院環境では引き続き慎重な配慮が求められた影響で、症例を集積することには制限が大きく、当初の予定症例数には及ばなかった。 今年度はこれまで集積したデータを利用して積極的に学会発表を行った。2023年6月に、第5回日本メディカルAI学会学術集会に参加し「活動量を用いた抑うつリスクの評価とリスク因子の検討」と題し、機械学習を用いて活動量から抑うつやせん妄を始めとした精神症状の発症を予測する内容の発表を行った。これにより、優秀ポスター演題賞を受賞した。2023年6月には、第28回日本緩和医療学会学術大会に参加、「東北大学病院における緩和ケアチームと精神科リエゾンチームの連携」と題した演題の中で、研究の取り組みを紹介した。さらに、第33回東北作業療法学会において、「化学療法中のがん患者へのウェアラブルデバイス活用の試み」と題して現場への応用の課題を中心に研究の取り組みを紹介した。さらに、2023年11月には第36回日本総合病院精神医学会総会に参加し、がん患者の症状緩和に資する新たな心理社会的変数の同定―セルフスティグマ」と題して発表した。 今後は研究を進め、詳細なデータ解析や、新たな研究を実施することにより予測モデルの構築に資する症例を集積、さらにはせん妄の検知に係わるバイオマーカーやウェアラブルデバイスの活用について検討を重ね、せん妄予測の精度を向上させるモデルを開発し、病院環境での医療安全向上に資する予定である。
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