研究実績の概要 |
本研究の目的は、大学病院ICUにおけるMRSA交差伝播のリスク低減方策構築に向け、交差伝播の実態と課題を明らかにすることである。加えて、多施設研究へ発展させるための基盤を作り、MRSA交差伝播対策の強化を進める。 本研究は、A大学病院医学部倫理委員会の承認を得て開始した。A大学病院GICUに入室する対象患者の入室時薬剤耐性菌スクリーニングの結果を使用し、MRSA交差伝播と皮膚障害, もしくはその他因子との関連性を検討するためのデータを収集した。新型コロナウイルス感染拡大の影響によりデータの収集に時間を要したが、目標症例数に達したため統計解析を行った。その結果、大学病院GICUに緊急入室する患者において、MRSAを持ち込む独立した危険因子として気管切開(OR:4.9、95%CI:1.7-14.2)が抽出された。皮膚障害を有する患者の割合はMRSA持込患者に多い傾向があったが、統計学的有意差は認めなかった。 現在、MRSAを保有する気管切開患者がICUへ緊急入室する際、入室直後にMRSAの伝播元とならないようさらなる具体的なMRSA伝播対策を模索するため、MRSAの保有、未保有に関わらず、ICUへの緊急入室時に気管切開を有する患者の患者背景、入室後48時間以内の看護ケアや入室前の療養環境などの調査を開始している。重症化しICUに入室する気管切開患者、及びMRSAを保有する気管切開患者の特徴について明らかにすることで、さらなる伝播予防策構築の一助となると考える。 本研究の一部について、学術集会にて発表した(板津ら,第50回日本集中治療医学会学術集会, 2023)。また、本研究に関連する研究成果を学術雑誌に投稿し、採択・掲載された(板津ら,日本救急医学会中部地方会誌, vol.17, 2021)(Itazu et al, Nagoya Medical Journal, in press)。
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