研究課題/領域番号 |
20K19093
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松尾 和枝 九州大学, 医学研究院, 講師 (90389502)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 緑内障 / 視線計測 |
研究実績の概要 |
本年度は、①前年度に作成した視線計測のシステム改善・実施、②点眼治療中断理由の概念化・アセスメントモデルの試作を実施した。 ①PC画面上での視線計測システムの改善:視野角60度(ハンフリー視野計より広角)まで測定できるようディスプレイのサイズ、高さ、研究対象者との距離を設定。ランダムに、3秒ずつ点灯する指標を追視させ、視野映像および視線軌跡、注視位置や注視時間、瞬目回数、反応時間を測定した。結果:20歳代から50歳代の健常者15名に、グラスタイプのアイトラッキングシステムを装着し、単眼ずつ実施し、視線解析ソフトで分析した。健常者では、年齢が若いほど反応時間が短い傾向にあった。年齢を問わず、中心視野部(30度以内)から周辺視野部(40-60度)に行くほど反応時間が遅延したが、短時間でも追視はできていた。通常の視野検査では、中心を固視したまま、周辺部の指標が見えた際にボタンを押して申告する方法であるため、タイムラグが生じる可能性があるが、本計測では、瞬時に視線が移動することで、周辺視野で捉えられていることが分かった。今後、緑内障患者との比較のための基礎データになりうると考える。 ②点眼治療中断の理由の概念化・アセスメントモデルの試作 前年度、緑内障患者のインタビュー結果を質的に分析し、「点眼治療中断理由」について3つのコアカテゴリ、8つのカテゴリを生成した。本年度はさらに抽象度をあげ、年齢層、点眼治療期間などの属性ごとにカテゴリを分類した。緑内障の病期、年齢に応じて起こりやすい点眼アドヒアランスの課題が見えたことから、短時間で点眼アドヒアランスの状況をアセスメントするためのモデルを示すことができると考える。当初、点眼治療支援プログラムの開発を計画していたが、研究対象者を増やしアセスメントモデルを洗練することで、個々の患者の状態にあった、プログラムにつながると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、POAG患者へのインタビューや視線計測を予定していたが、視線計測の課題として日常生活行動における測定の誤差が大きいこと、依然として感染症の拡大により、患者への調査が躊躇されることから、健常者からの基礎データを収集することとした。PC画面上での視線計測システムの改善と健常者への実施は順調に行うことができ、有用なデータが得られた。また、当初、POAG患者の点眼治療支援プログラムの開発を計画していたが、これまでの研究結果から、点眼アドヒアランスをアセスメントするためのモデルを作成することに計画を変更した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画であった、日常生活行動での視線計測の必要性について、誤差が少なく安定した結果が得られるPC画面上での視線計測も視野に十分検討する。また、POAG患者の点眼治療支援プログラムの開発に向けて、まず、患者個々の点眼アドヒアランスをアセスメントするためのモデルの洗練に努める。 【POAG患者への調査】対象: POAG で眼科外来通院治療を行っている患者15名程度(初期・中期)。 自身の判断で研究に参加できる概ね40 歳から80 歳の患者を研究協力者である眼科医から紹介してもらう。研究参加およびカルテ閲覧について同意を得て行う。方法:①グラスタイプのアイトラッキングシステムを装着し、PC画面上での視線計測を実施。視野映像および視線軌跡、注視位置や注視時間、瞬目回数、移動速度、反応時間のデータを収集し、視線解析ソフトで分析する。②半構成的面接にて、自覚症状及び見え方について、受診および点眼治療の実施状況、治療上の困難、治療継続に対する考え・感情、受診および点眼治療中断の理由を収集する。得られたデータを質的に分析し、すでに明らかとなったカテゴリや構造を吟味し、アセスメントモデルを洗練させる。③視線計測データ、臨床所見、患者からの主観的情報から、治療継続のための支援プログラムを作成する
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究対象者として予定していた患者に調査ができず、健常者や学内教員の協力を得て実施したため、人件費の一部を使用したのみで、旅費は発生しなかった。次年度は、研究対象者に対する謝金などの人件費を中心に充当予定である。
|