本研究では、日本の精神科領域の課題となっているトラウマケアについて、援助者の実践能力を向上するために、ICTを用いた教育・支援プログラムを開発、実施した。 研究Ⅰでは、トラウマ体験者を支援する援助者の体験と教育・支援ニーズを面接調査により明らかにした。その結果、援助者はトラウマの基本的な知識について、十分に身についていないため、当事者への関わりに自信ないことなどが明らかになった。 研究Ⅱではトラウマ体験者の支援ニーズを面接調査により明らかにした。その結果、不安定な養育環境での生活のなかで自尊感情が育まれず、援助希求の困難さや自分なりの対処を行う状況で深刻化する生きにくさを体験していた。しかし、生活環境が整うことや人に受け入れられる体験によって、視野の広がり、自分の逆境体験に折り合いをつけるという体験をしていた。公衆衛生的な視点をもってトラウマの知識やケアを普及していくこと,生活環境を整えること,感情表出を助け当事者が自身のニーズに気づくことができる働きかけが必要であることかわかった。 研究Ⅲでは、研究Ⅰ、Ⅱの結果をもとに教育・支援プログラムを開発した。動画は1回60~30分程度で、3つのプログラムで構成した。内容は①トラウマの基本的知識とケア、②二次的外傷性ストレスとその予防、③感情活用能力向上のための教育についてであった。 研究Ⅳでは、教育・支援プログラムの介入研究を行った。精神科の看護師を対象に、教育・支援プログラムの動画を配信し、視聴してもらった。動画視聴前後の質問紙調査やグループ・個別インタビューの結果、動画視聴前後を比べると、全体的に内容の理解が深まり、患者への関わりに向けて意欲が高まるといった肯定的な変化がみられていた。課題として、実際に臨床にどのように活用できるか自信がないという反応があった。今後は、事例等を用いて実際のイメージがつくプログラムの内容が必要である。
|