研究課題
高齢者や認知症患者では時間感覚が変容することが知られている。本研究では、多様性を認め合える社会を目指すため、変容した時間感覚をつなぐ、分かりやすい日本語の創造を目指している。【目的・方法】言語的時間感覚を、非認知症高齢者と認知症高齢者で比較するため、当院外来に通院している非認知症高齢者6例、軽度認知障害患者10例、認知症患者37例を対象とした。課題文に書かれた事象が「いつ」のことと感じるかを、現在を「5」、遠い過去を「1」、遠い未来を「9」として9段階で回答を求めた。課題文は予め200例作成し、その中から被験者間で回答に変動の少ない11例を抽出し検討した。課題文の時制ごとに各群の回答を比較した。また、脳機能解析画像(脳血流SPECT検査)を行い、時制ごとに相関する脳部位を検討した。【研究結果】1)高齢者ほど、すべての事象を「現在」に近く答えた。2)認知症群は非認知症群と比べて、未来の時制をより「未来」に、過去の時制をより「過去」に感じると答えた。3)課題遂行時間は両側帯状回後部と両側小脳の脳血流と負の相関関係にあった。4)過去時制の判断には両側海馬の血流と負の相関があった。【考察】高齢者と認知症では文中の事象の時間的感覚が全く異なることが明らかになった。アルツハイマー型認知症において帯状回後部は、海馬や楔前部と繊維連絡があり、記憶障害や見当識障害に関わっている。自伝的記憶における機能解析画像研究においては、帯状回後部の機能低下は、アルツハイマー病において未来や過去の自伝的記憶の想像の障害と関連している。本研究では、課題文の遂行に帯状回後部が関わり、認知症群では「過去」と「未来」時制の回答が障害されていた。変容した言語的時間をつなぐためには、「現在」を起点とした文章やカレンダーのような客観的な時間表現が適切と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
令和2年から3年度で、認知症群と非認知症群を対象に言語的時間感覚を検討した。コロナ禍のため、接触を少なくするため、課題量を減らし、対象人数も減少したが、認知症群と非認知症群とで言語的時間感覚の違いが明らかになった。投稿の準備を行っており今年中に投稿する予定である。
今年度は言葉リストを作成し、絵画配列課題と言語説明の作成を準備する予定にしている。コロナ禍に対応し、課題の遂行方法や課題数を見直す。
新型コロナウィルス感染症の影響により、画像診断に用いる学内PCの使用に制限が生じた。期間内での研究目的達成のため、解析用PCを新たに導入したことで、初年度の予算を上回り、前倒し申請を要した。残金は投稿論文の校正・出版費に充てる予定である。
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