喫煙は循環器病・がんなどの非感染性疾患による死亡を予防し得る最大の要因である。この喫煙への対策に加えて、わが国では2008年以降メタボリック症候群(MetS)対策が循環器病予防の柱となり、肥満予防・改善がスクリーニングや保健指導の中心概念とされている。ところが、一般的に禁煙開始後には体重増加をきたすため、同じ循環器病予防を目指すものでありながら、禁煙とMetS対策とが、体重という観点で相反する場合がある。本研究では、禁煙開始後の体重増加により循環器疾患予測スコアが上昇に転ずる点を算出し、禁煙に際し看過し得る体重上昇の上限を示すことにより、対象者の背景に応じた、安全かつ効果的な禁煙支援の根拠を提供することを目指すものである。 一健診機関にて、4年以上連続して健診を受診した30-64歳の者のうち、3年以上の継続禁煙者3200人と、禁煙者の性・年代にマッチングさせる形で無作為抽出した非喫煙者4800人・喫煙者4800人の計12800人を対象とした。禁煙者は1年後の体重増加量が非喫煙者・喫煙者よりも大きいことが示されたものの、平均1.5Kg未満にとどまった。2年後以降体重増加は鈍化し、体重増加量に非喫煙者・喫煙者との差は見られなかった。1年後の体重が5%以上増加した者としなかった者について、男性では体重が増加した禁煙者で1年後の血圧がより大きく上昇したが、2年後以降は体重増加有無による違いは見られなかった。また、5%以上の体重増加有無で、心血管病リスクスコアの変化に差は見られなかった。男女差などについて今後さらに検討する必要がある。
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