研究課題
病院で胃ろう造設後、多くの患者は自宅や施設へ移るが、在宅や施設では胃ろうから経口摂取への移行が進んでいないことが課題となっている。その要因の一つに、在宅や施設では誤嚥の要因となる胃食道逆流症のアセスメントが十分できず、誤嚥や誤嚥性肺炎を過度に恐れて不必要な経口摂取の制限をしてしまう、ということが考えられる。そこで本研究では、看護師が胃ろう造設後の高齢者に対して実施可能な、胃食道逆流症のアセスメント方法と口腔内の衛生状態のアセスメント方法を確立し、経口摂取への移行を促進するプロトコルを確立することを目的とした。2020年度は咽頭内に逆流物が存在した場合に初心者であってもエコーで同定できるようにするために、梨状窩の咽頭残留を検出するための画像処理AIを開発した。16名の摂食嚥下障害のある者を対象に甲状軟骨を基準として嚥下内視鏡検査と同時に梨状窩のエコー画像を撮影し、機械学習を用いて梨状窩の残留物をエコー画像から自動で検出するモデルを作成した。作成したモデルによる咽頭残留検出の感度・特異度はそれぞれ84.6%と68.8%であった。同じ画像に対する、エコーの使用経験はあるが咽頭残留の評価の経験はこれまでに無かった5名の看護師による咽頭残留検出の感度・特異度はそれぞれ30.8%から92.3%、25.0%から68.8%であった。このことから、作成したモデルは看護師がエコーで咽頭残留を観察するための支援技術となることが期待された。したがって、このモデルを用いることでエコーによる胃食道逆流症のアセスメントが多くの看護師にとって容易に実施できるようになると期待される。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は内視鏡による診断を基準として画像処理AIを用いたエコーによる逆流症の同定結果の併存的妥当性を明らかにすることを目的としていた。逆流症の同定にも応用可能だと思われる、エコーを用いて咽頭残留を検出するためのAIの作成は達成できており、計画通りの進捗であったと考えられる。
2021年度は、胃ろうによる経管栄養法実施中の65歳以上の高齢者を一定期間追跡する前向きコホート研究を行い、肺炎発症に影響する口腔内の衛生状態を明らかにする。口腔内の試料の細菌叢解析結果とエコーによる逆流像の同定を組み合わせた肺炎発症の予測妥当性を明らかにすることで、胃ろう造設後における経口摂取移行の促進アルゴリズムを提案する。続いて、考案したアルゴリズムの内容妥当性を検証するための前向きコホート研究を実施する。考案するアルゴリズムに従い、2週間に1回口腔ケア時の口腔内の試料採取と栄養剤投与終了時、食事摂取時のエコーによる観察を行う。アルゴリズム通りに誤嚥予防ケア、口腔ケア、逆流予防ケア、経口摂取の量と内容の拡大が行われた場合とそうでない場合とで、観察期間終了後のアウトカムを比較する。アルゴリズム通りにケアが行われた場合はそうでない場合に比べ、経口摂取の実施割合が高く肺炎の発症割合は低いという結果を以て考案したアルゴリズムの内容妥当性が示される、と考える。
エコー機器を当初の予定より安価に購入することができたため、また予定していた学会発表がオンラインでの開催となったため旅費が不要となり余剰金が生じた。こちらは翌年度の計画における前向きコホート研究の消耗品、旅費に充てる予定である。
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Japan Journal of Nursing Science
巻: 18 ページ: -
10.1111/jjns.12396
http://www.imagingnursing.m.u-tokyo.ac.jp/