本研究課題では、災害用段ボールベッドの体圧分散能に着目し、災害用ベッドとしての妥当性を検証することを目指して実施した。しかし、研究の開始時期が新型コロナウイルスの感染拡大時期と重なったため、当初は人を対象とした研究が困難であり、まずはダミーモデルを用いた予備実験から行ったところ、段ボールベッドのみを使用した場合の体圧分布は、直接床に寝た場合と差がないことが示され、段ボールベッドに災害用毛布を敷いても体圧分布に大きな変化が見られないことが示唆された。また、この結果は健常者を対象とした検討においても確認されており、段ボールベッドのみの使用では体圧分散が期待できず、段ボールベッドを使用する際には、体圧を分散するための布団やマットレス等を併用することが重要であると結論づけた。 ここまでの結果を受け、最後に段ボールベッドと折りたたみ式キャンプコットを使用した際の睡眠指標を比較するランダム化比較試験を実施した。その結果、睡眠脳波に関連した指標では両者に有意な差は認められなかったものの、キャンプコットの方が段ボールベッドよりも体圧分散能に優れ、1時間あたりの寝返りの回数が少なく、寝心地や睡眠の満足度も高いことが示された。しかし、本研究の対象は比較的若い健常者であり、それぞれのベッドで寝たのも一晩のみであったことから、体圧の集中による筋骨格系の負担が睡眠脳波に及ぼす影響は限定的であったと考える。ただし、大規模災害発生時には避難所生活が数ヶ月に及ぶため、寝具が被災者の健康状態に及ぼす影響は小さくないと考える。段ボールベッドは短期間で大量生産が可能であるという利点があるため、今後は段ボールベッドと併用可能な、安価で短期間に調達可能なマットレスの具体的な提案ができるよう研究を進めていく予定であり、引き続き被災者の健康と快適性を向上させるための知見を提供することを目指していく。
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