研究課題/領域番号 |
20K19265
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研究機関 | 奈良学園大学 |
研究代表者 |
坪内 善仁 奈良学園大学, 保健医療学部, 助教 (90849473)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Empowerment / 高齢者 / 不活動 / 入院患者 / 評価尺度開発 |
研究実績の概要 |
高齢者の不活動 (閉じこもり)による認知症や運動器疾患の発症,医療・介護給付費の増加が社会的問題となっている.Cox(1994)は高齢者の不活動要因について,入院による環境変化や役割喪失がEmpowermentを低下させ,社会参加を阻害する一要因であることを示した.さらに,入院環境にある高齢患者のEmpowerment尺度としてPatient Empowerment Scale(PES:40項目の質問紙法)が開発された(Faulkner,2001).しかし,国内では高齢患者のEmpowerment尺度は存在せず,臨床研究として高齢患者の不活動とEmpowermentとの関連は示されていない.そこで,本研究ではPES日本語版を作成し,評価した結果を用いて高齢患者の不活動とEmpowermentとの関連および構造を解明することで,退院後の社会参加を目指したプログラム開発の足がかりとすることを目的とした. 研究計画では,1.PES日本語版の作成,2.PESの信頼性,妥当性の検証,3.基本属性の調査,4.認知機能評価,5.ADLの評価,6.身体活動量の評価,7.不活動とEmpowermentとの関連,構造の検証を行うこととした. 令和2年度は,日本国内の高齢者を対象としたEmpowerment研究の動向を検証し,2000年~2019年で関連する8811の論文をもとに,日本文化における高齢者のEmpowerment概念分析を実施した.その結果,7つの先行要件,6つの属性,7つの帰結が見出され,概念および定義の再構築に至った.さらに,研究計画1では原著者の同意を得てPESが完成した.その後,研究施設の協力により,研究計画2~6の調査項目を入院患者80例(目標対象者数100例)で実施した.研究計画2および7の分析に向け,令和3年5月までに100例到達を目指し,現在も調査を継続している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
Empowerment評価尺度日本語版の作成については,令和2年度で80名の調査を終え,引き続き実施している観点から,研究課題の遅れはない.しかし,退院後の不活動とEmpowermentとの関連,構造の検証については,不活動の指標として,身体活動量評価を取り入れ,入院時と退院時,退院1週後と計3回の調査を計画していた.研究施設では,退院後の参加を目指した集団プログラムや就前活動(自己選択プログラム)の開発と検証,実践報告(事例報告)において,自宅退院1ヶ月後の身体活動量や役割・余暇といった作業バランスの調査を50例以上実施してきた実績があり,さらに退院1週間後には作業療法士と看護師が必ず自宅訪問を行っていたため,訪問時の移動手段(公用車)や説明,調査は滞りなく可能であると考えられた.しかし,Covid-19の影響により,令和2年度は施設の方針変更がなされ,対象者の強い希望や医療的必要度・緊急度が高い場合を除き,自宅訪問は行わないことが示された.そのため,施設外での身体活動量計貸与を伴う退院1週後の身体活動量調査が行えていない状況であり,本研究課題が遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
Empowerment評価尺度日本語版の信頼性・妥当性検証については,令和3年5月までに100例の調査を終える予定であり,調査後は令和3年度上半期に分析を行う方針である.また,令和3年度下半期には,分析結果を基に学会発表・論文執筆へと進めていく. 一方で,不活動とEmpowermentとの関連,構造の検証については,本研究課題の期間内にCovid-19の収束が見込めない状況であり,退院後の自宅訪問や身体活動量計を貸与した積極的な調査は困難と考えられる.さらに,地域では不要不急の外出制限下であることから,退院後の参加については,調査結果の信頼性が乏しいことが考えられる.そのため,研究計画の変更も視野に,研究協力者ならびに研究施設の施設長とも早々に協議を行う予定である.具体的な変更・対応策として,入院期間中の身体活動量調査は可能であることから,まずは退院時の身体活動量調査結果に着目して高齢患者の退院時の身体活動量とEmpowermentとの関連,構造の検証を進めていくことも検討している.退院時の身体活動量は,退院後の参加に影響するため,研究目的からの重大な乖離はないと考えられる.また,この方針であれば,調査項目や対象者の追加も必要なく,当初計画した令和3年度の上半期に調査を終え,下半期に分析を行うことが可能となる.さらに,令和4年度には分析結果に基づき,学会発表・論文執筆と滞りなく進めることが可能である. 以上のことを踏まえ,令和3年度はCovid-19の状況を確認しつつ,本研究課題の推進のために,研究計画の見直しを視野に検討を行う方針である.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費について,令和2年度は,Covid-19の影響があり,研究代表者による研究施設の出入りが禁止(直接の調査・管理)となった.そのため,データ収集・解析を目的とした奈良学園大学-秋津鴻池病院間の旅費使用がなかった.さらに,参加予定であった学会もオンライン開催となったため,予定していた奈良-新潟間の学会旅費の使用がなかった. 人件費についても,研究計画では自宅退院後の身体活動量調査および生活状況調査のために,人件費と謝金を設定していた.しかし,Covid-19の影響により退院後の直接的な自宅訪問と調査,身体活動量計の貸与を伴う評価が実施できず,人件費と謝金の使用が少なかった.一方で,研究代表者に代わり,研究協力者(研究施設常駐)が調査を継続できたため,研究課題を進めることは可能であった.
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