認知症の人が古い過去の記憶の中で生きているような認識を持っており、現実とは違う世界にいるような状態は「タイムシフト(Time-shifting)」現象と呼ばれている。本研究では、どのような人がタイムシフトを起こしやすいのかをより詳細に把握し、またその対応法を確立することを目的とした。その中で、令和4年度は、タイムシフトへの効果的な対応方法とされているTherapeutic lying(治療のための嘘)に関して、本邦の家族介護者を対象とした調査を行った。その結果、認知症の人に嘘をついたことがあると回答した人が89.2%、それによりうまくいくことがあると回答した人が94.1%、問題が起こることがあると回答した人が32.6%であった。また、Therapeutic lyingでうまくことが多いのは、要介護者にBPSDが多い場合であり、Therapeutic lyingを使うと問題が起こりやすいのは、介護者が65歳未満の場合や、介護者が男性の場合、要介護者がタイムシフトしていない認知症の人の場合であることが示唆された。 さらに、これまでの調査により、外国人介護士(外国人介護人材)による認知症ケアに関しては、外国人介護士向けの教育・研修プログラムの必要性が示唆されていた。このことに関して、留学生が多く在籍する介護福祉士養成校において、医療における模擬患者(simulated patient)の応用として、地域住民の協力による模擬利用者の参加を得て、学内模擬デイサービスを行った。それによる学生の満足度や、自己効力感への効果検証を行った結果、実習後の満足度は高く、また自己効力感の向上が、一般性セルフ・エフィカシー尺度の下位因子である「能力の社会的位置づけ」が向上する傾向という形でみられた。
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