研究課題/領域番号 |
20K19274
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
蔵本 綾 香川大学, 医学部, 助教 (20849640)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 統合失調症 / Sense of Coherence / 人生経験 / パーソナルリカバリー / セルフスティグマ / 地域生活支援 |
研究実績の概要 |
地域で生活する統合失調症者の人生経験から捉えるSense of Coherence(以下SOC)に関するインタビューデータを分析した。なお、インタビューは新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)流行前の2020年2~3月に実施したものである。当事者を対象とした調査のためオンライン面談への変更も難しく中断が長期に渡ったため、流行前に取得したデータで分析することとした。 A県内の精神保健福祉施設(地域活動支援センターおよび就労継続支援B型事業所)を利用しながら、地域での生活を1年以上継続できている40~60歳代の統合失調症者6名を対象にインタビューを行った。許可を得て録音し、得られたインタビューデータを逐語録に起こした後、SOCを構成する「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」を表している部分を抜き出し、意味の類似点と相違点を比較し、カテゴリー化した。各カテゴリーを《》で示す。 把握可能感では《不透明な先行き》《疾患・症状の経過の見通し》《生活が成り立っている実感》の3カテゴリーが生成された。処理可能感では《事業所の活動を基軸とした生活の組み立て》《疾患・症状との付き合い方の模索》《試行錯誤により築いた人間関係》《生活スタイルの再構築》《学業・就職に関する心残りと困りごと》の5カテゴリーが生成された。有意味感では《統合失調症に捉われない生活》《「普通の人」「普通の生活」への憧れ》の2カテゴリーが生成された。 SOCの3つの感覚のうち、有意味感が最も重要とされる。対象者からは統合失調症を発症したことで諦めたものについて多く語られたが、統合失調症を発症したことで得たものも語られた。統合失調症の発症に意味を見出すことは難しく、長い経過で疾患を受け止めてはいてもどこかで諦めきれない気持ちを持ち続けていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた地域で生活する統合失調症者へのインタビューはCOVID-19流行に伴い、中断せざるを得なかった。インタビュー内容が当事者の生活に関連する内容のため、中断期間が長期に及んだこと、流行前後で生活が大きく変わったことから、インタビュー再開が可能となっても、流行前に取得していたデータと合わせての分析は困難であると判断した。結果、6名のデータでの分析となった。 また、施設への立ち入り制限も続いていたため、精神科デイケアを利用しながら地域で生活している統合失調症者を対象とした郵送によるアンケート調査を実施した。セルフスティグマとSOCおよびパーソナルリカバリーの関連を検討したものである。 当初の計画からは変更とはなったが、概ね順調に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症当事者へのインタビューおよびアンケート調査の2つの研究を通して、統合失調症を持つ方の地域生活支援において、「就労」の重要性がより明確となった。統合失調症者も「精神障害者」として一括りにされることが多いが、発症までに就労経験を有することの多い気分障害等とは支援方法も異なる。勤労者のSOCに関する研究はこれまでにも多数行われている。今後は統合失調症者のSOCに着目した就労支援に関する研究が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行に伴い、研究遂行が一時困難となり予算を使用できなかったため、初年度より次年度使用額が生じていた。また、当初の計画では、学会等に現地参加を計画しており移動・宿泊費を計上していたが、COVID-19流行に伴い関連学会の開催方式がオンラインに変更となったため、予算執行額が減少した。 今年度は論文掲載費および学会参加に関連する移動費・宿泊費として使用する予定である。
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