アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease:AD)の意味記憶障害に関する神経ネットワークを可視化し重症度を定量的に評価するために、まず、ADにおける語流暢性課題の特徴と意味記憶障害との関連について検討を行なった。その結果、中等度ADは語流暢性課題においてスポーツ・果物・乗物より、洋服・文房具・料理といったカテゴリーの想起語数が有意に少なく、カテゴリー特異性を認めた。語の想起や単語の理解の障害が意味カテゴリーによって異なることは、意味記憶障害を示すものとされる(Warringtonら 1984)。また、AD群は意味的に関連する語を連続して想起することが少ないことから、意味ネットワークの賦活が弱い可能性があると考えた。研究の結果より、ADの語想起障害の基底に意味記憶障害があることが考えられた。この結果を論文にまとめ学術誌に投稿し掲載された。またこの論文の成果が評価され、日本高次脳機能障害学会において第25回長谷川賞を受賞した。 さらにAD群において意味ネットワークの賦活の弱さが語想起障害と関連するのであれば、意味概念に基づくヒントを提示すると語の検索が促進される可能性があることに着目し研究を行った。その結果、意味記憶障害が軽微な軽度ADは意味概念に基づくヒントにより語の想起が促進されたが、中等度ADにはそのような傾向は認められなかった。このことから、軽度AD患者との会話では、聞き手が文脈や状況に関連する単語と関連する意味情報を提示して、語の検索を促進することが重要であると考えた。中等度AD患者には、言語情報だけではなく視覚情報などを用いて会話を促進するための配慮が必要であることが示唆された。この研究成果を論文にまとめ海外の学術誌へ投稿するため英文にし、投稿先の選定を行なっている。
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