研究課題/領域番号 |
20K19293
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
森 礼子 日本福祉大学, 看護学部, 准教授 (70733038)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地域DOTS / リスクアセスメント票 / ベトナム人結核患者 / 結核患者支援 / 結核看護 |
研究実績の概要 |
地域DOTSで外国出生結核患者に適切な支援を提供するには、出生国の特性を加味し患者を正しくアセスメントする必要があるが、現在国内にはそのようなリスクアセスメント票はない。本研究では、国内で急増しているベトナム人結核患者専用のリスクアセスメント票を開発することを目的とした。それにより、患者への質の高い支援の提供、地域DOTS成功率の向上、そして地域DOTSを行う保健師への効率的、効果的な保健活動に寄与できると考えた。 これまで、インタビュー調査でベトナム人結核患者によくみられる服薬中断リスクを抽出した。当該年度においては、①ベトナム人結核患者専用のリスクアセスメント票の素案を考案し妥当性をみること、②利用可能性について確認することであった。調査方法はそれぞれ以下の①と②である。 ①では、考案した素案をベトナム人結核患者に関する知識等を持つ専門家らに意見を求め、修正することである。依頼した専門家は4名。考案したリスク項目は、7分類した計38項目であった。その結果、リスクアセスメント票(案)の構成は、7分類(病状、社会的背景・生活背景、結核の理解、結核の受容、心身の状況、言語リスク、ベトナム人結核患者の特性・特質)の計28項目となった。 ②では、デルファイ法を用いて、実践で経験豊かな保健師らに①で修正されたリスクアセスメント票(案)が実践で利用可能なのかについて確認することである。調査対象者には選定基準を設け、専門職としての力量(経験値が5年以上)あること、地域DOTSでベトナム人結核患者の対応経験が複数回あることとした。対象者は、国内でベトナム人居住者の多い自治体をリストアップし、そこを管轄する結核担当者に協力を仰いだ。協力可能と回答された対象者15名に、実践での知識とこれまでの経験を基に、①の7分類28項目のリスク項目の適切性について意見を求めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始の年度初めからCovid-19により研究計画が頓挫した状況で、特に本研究の対象となるのが保健所の感染症対応の保健師であったため、更に研究は難航した。量的調査を実施しても回答の回収は期待できないと判断し、これまでにインタビュー調査および専門性の高い対象に限定した質問紙調査を行ってきている。 前年度はベトナム人結核患者に関するインタビュー調査を行った。ベトナム人結核患者を対応している保健師からのインタビューを予定していたが、対象者の確保が難しいと思われ、患者と保健師の間の意思疎通を図る医療通訳者を対象にベトナム人結核患者の服薬中断要因を抽出した。抽出されたリスク要因は、先行文献および森ら(2019)が行った国内での標準的な結核患者の服薬中断リスク項目を参考に、ベトナム人結核患者の服薬中断リスク項目の素案を考案した。 当該年度は2つの調査を行った。1つめは、ベトナムの結核について専門知識のある結核研究者及びエキスパートらへの調査を実施した。国内でベトナムの結核について専門的知識を持つ研究者は非常に少なく、対象者探しに難航した。最終的に、海外在住の結核を専門とするベトナム人医師にも協力を仰ぎ、計4名の専門家の意見を参考に、素案の各項目を見直し、修正を行った。 2つめの調査では、実践における修正素案の適切性の確認である。この調査では対象者に選定基準を設け募集したが、保健所でのジョブローテーションが概ね3年、若い年代が配置される傾向があること、加えてCovid-19の対応で調査協力が困難であるという状況も重なり、対象エリアを全国に拡大したものの、選定基準に該当する対象者を探すのに難航した。計15名の経験値の高い実践者らからデルファイ法による調査を開始し、現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は地域DOTSにおけるベトナム人結核患者専用のリスクアセスメント票の開発である。当初の研究計画では、質問紙調査をベースにした服薬中断リスク案を考案し、それを実際に保健所で試行する予定であったが、Covid-19の国内蔓延により、研究計画の変更をせざるをえず、3年間の研究計画は4年間に延長することになった。これまでに研究方法は変更してきたが、研究目的は一貫して変更していない。 本研究が大きな影響を受けたCovid-19に関しては、2023年5月から様々な規制緩和が行われるが、あと1年未満となる本研究期間中にコロナ禍以前の社会情勢になる可能性は低いと思われる。これまでの研究計画の変更では質的な研究にシフトした。また、利用可能性を図る保健所での試行に関しても研究協力を得ることは難しいと考え、デルファイ法による経験豊富な実践者らを対象に実施した。現在のところ、結果はまとめられていない状況であるが、対象者らは現在もベトナム人結核患者のDOTS活動を行い、それを通して回答されているため、保健所での試行調査も概ね包含した結果となるものと考えている。 一方、現在、研究中のデルファイ調査の対象者から、各リスク項目が示す内容の意図がわかる説明文を添えることが望ましいという意見を複数受けている。ジョブローテーションで異動してきた保健師には、各リスク項目が意図することの理解不足あるいは誤った捉え方をする場合も考えられる。今後、現在調査中のデルファイ調査の結果をまとめると同時に、各リスク項目の説明書の作成を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19が大きく影響し、研究計画の変更、当初予算の内容変更が発生した。 当該年度ではアンケート調査が実施できなかったこと、学会参加費等で係る予算(主に旅費)も支出できなかったため、費用が多く余剰している状況である。 今後、リスクアセスメント票の説明書を作成するための印刷等に係る費用、学会参加費・旅費等、論文投稿等の費用等について、使用する計画をしている。
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