研究を進めていく中で脳卒中片麻痺者の中でも同名半盲を有する者の特徴的な代償戦略(過度な頭部回旋、非障がい側側の壁を注視)が明らかとなってきた。同名半盲者はこのような戦略によって障害物の見落としを回避しようと試みるが,それでも見落としが生じる場合,運動機能が高くても歩行自立に至らず、視線行動パターン自体の改善が必要と考えられた。 欠損視野を補うためには半盲側へのサッカード(視覚目標を捉えるための急速眼球運動)が有効とされるが,サッカード機能が移動時視線行動にどの程度関与し,障害物の見落としに影響しているかについて報告された例はない.そのため2022年度研究では,歩行・バランス機能が同程度で歩行自立度に違いのある同名半盲者2名に対し,移動時視線行動とサッカード機能との関連について検証することを目的とした. 対象は脳卒中後同名半盲者2名(症例1:20代男性,約2年前くも膜下出血を発症後左片麻痺,屋外T字杖歩行自立.症例2:50代男性,約2年前左皮質下出血を発症後右片麻痺,屋内外T字杖歩行非自立).課題は視線解析装置(Dikablis Glasses 3)を装着して歩行課題(隙間通過課題)と机上課題(注視、サッカード課題)の2種類とした。 歩行課題において,衝突回数は両者ともに1/9回であったのに対し,半盲側下を注視(麻痺側足の引っ掛かりを確認)している試行は症例1が8/9試行,症例2は2/9試行であり,移動時視線行動の違いが確認された.机上課題では,両者ともに正面の注視課題は5秒間正確に停留できた一方,サッカード課題では半盲側への眼球運動速度の遅延が症例2に顕著にみられた。 今回の結果より,移動時視線行動の違いについて,サッカード機能不全が少なからず影響している可能性が示唆された.今後症例数を増やすとともに,眼球運動機能向上によって視線行動がどの程度変化するか,継続した検証を行っていく.
|