認知症発症予防の機序を解明するため、札幌医科大学白菊会の献体者データベースに登録されている90歳以上の高齢者でかつ認知機能が保たれている者に、認知機能と疾病の数、内服薬の数、身体活動量・生活行動範囲・生活習慣・心理機能(うつ、孤独、well-being)、唾液中エクソソーム内のマイクロRNAとの関連をそれぞれ検討した。なお、研究期間中に研究対象者が死亡した場合、脳のアルツハイマー病理所見を評価した。現在40例の評価を終え、このうち認知機能が正常(MoCA-J24点以上)に保たれている者は17名、軽度認知障害(MoCA-J=23点以下)者は 23名であった。認知機能が正常に保たれている者では、軽度認知障害と比較し身体活動量(IPAQ)が高く、認知機能は生活行動範囲の広さ(LSA)と関連があった。一方、疾病数、内服薬の数、心理機能、生活習慣に関連は認められなかった。本研究進行中に死亡し脳の病理所見が評価できた者は3名であった。死後脳の大脳皮質、海馬、大脳基底核及び脳幹・小脳の病理標本スライスを用いてAβ、tauの蓄積を評価したところ、3名ともアルツハイマー病理所見の陽性が確認された。なお3名の生前の認知機能は正常であった。 さらに、縦断評価で2年間の追跡評価が可能であった者は24名であった。ここでの認知機能の変化では1年間でMoCA-Jが3点以上低下した者は7名(Decline群)、低下しなかった者は17名(No Decline群)であった。この2群間では社会ネットワークスケール(LSNS-R)に有意差を認めた(p=0.018)、LSNS-R以外の指標は有意差を認めなかった。 本研究の結果、アルツハイマー病理所見が陽性の90歳以上の高齢者であっても認知機能を保つためには、高齢期の豊かな社会ネットワーク(他者とのつながり)が重要であることが示唆された。
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