研究課題/領域番号 |
20K19348
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
森野 佐芳梨 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 助教 (10822588)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動作解析 / 妊婦 / 腰痛 / リハビリテーション / 慣性センサ |
研究実績の概要 |
本研究目的は、客観的評価デバイスを用いて妊婦の脊柱のダイナミック解析を行い、力学的負荷の要素も加えることで腰痛発生リスクを評価する手法を考案することである。この目的をみたすため、本研究では、これまで困難であった脊柱の静的および動的アライメント変化を捉えるべく、20個の慣性センサ(Inertial measurement unit: IMU)を20mm間隔で連結させたシートを使用している。また、フォースプレートにより力学データを計測し、逆動力学計算により腰部への力学的負荷を算出した上で、脊柱のダイナミクスに関して統合評価を行った。加えて、実際に妊婦から聴取した腰痛発生状況を合わせ、腰痛発生リスクを評価するプロトコールの構築を目指した。 令和2年度は妊婦を対象とした動作計測実験により体重心位置と脊柱動作との関連性を調査した。具体的な研究内容と結果の概要としては、静止立位時の体重心位置を評価した後に、IMU連結シートにより脊柱の動作評価を行い、動作特性を予測することを検討した。この結果、静止立位時の体重心位置が前後方向に変動する妊婦は、立ち座りにおいて体幹の下方への屈曲は小さく、より前方へ移動させていることが示唆された。つまり、静止立位姿勢において前後方向のバランスが悪い妊婦は、立ち座りにおいて体幹の前後移動を制御できていない可能性が考えられた。令和3年度は、引き続く新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、妊婦を対象とした計測実験が困難な状況が続いた。これより、令和2年度の検証により確認された動作中に腰痛の出る妊婦と出ない妊婦の差異に加えて、追加解析により、腰痛の痛みの程度が大きければ大きいほど、立ち上がり動作における腰椎下部の前方回旋、つまり屈曲動作が大きくなるという正の相関関係を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、研究計画当初の予定では妊婦10名のデータを収集し、一連の計測プロトコールの検証を行う計画であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い妊婦を対象とした計測実験が困難であったため、取得できているデータの中でその可能性を検討した。対象者は当初の予定通り妊娠中期後半~後期(妊婦特有の体型変化が大きくなる時期)の妊婦であり、計測対象動作に関しても予定通り椅子の立ち座り動作とした。計測済みのデータによる研究のさらなる発展案について、具体的には、妊婦の静止姿勢評価を重心位置という力学的観点により評価し、その結果により脊柱アライメントの動作特性を予測する手法を検討した。これにより、本研究目的である客観的評価デバイスを用いて妊婦の脊柱のダイナミック解析を行い、力学的負荷の要素も加えた腰痛発生リスクを評価する手法を考案することに対し、当初の研究計画に加えて新たな活用手法を検討することができた。令和3年度は、計画時点では対象者を50名に増やす予定であったが、引き続き妊婦を対象とした計測実験が困難な状況が続いた。このため、これまでに得られていたデータを再解析し、さらなる知見の検討を行った。具体的には、腰痛の程度を評価する指標であるNumerical rating scaleの結果を用いて、痛みの程度と動作の程度の相関関係の検討を行った。この結果、腰痛の痛みの程度と立ち上がり動作における腰椎下部の前方回旋の間に正の相関関係を確認した。また、これらの結果を一度論文にまとめ、国際誌への投稿を進めた。その際、編集部および査読者のレビューコメントより、IMUセンサそのものではなく、連結したシステムによる人の動作解析に関する精度検証が必要であるとの指摘を受けた。これより、妊婦を対象とした計測実験の再開の目途が立たないことも考慮し、成人を対象としたシステムの検証実験計画を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2~3年度は、妊婦を対象とした計測実験が困難となったことにより、研究計画の見直しが必要となった。これに伴い、研究目的を達成するにあたり、当該年度内に取得できたデータの活用を検討した結果、開発予定のデバイスおよび評価手法に対して当初の計画に加えた新たな活用手法を見出すことができた。また、当初考案していた妊婦の椅子の立ち座り動作特性と腰痛との関連性について、痛みの発生の観点および痛みの程度の観点の両側面から確認することができた。なお、この際、対象者の特性(妊娠週数)や対象動作は当初の予定通りに実施した。 一方、得られた結果を用いて国際誌への投稿を進めたところ、IMUセンサそのものではなく、連結したシステムを用いた人の動作解析についての精度検証が必要であるとのレビューコメントを得た。これより、当初予定していた妊婦による検証を変更し、成人を対象としたシステム検証を行うべく、計画を進めている。これと同時に、妊婦への計測再開の見込みが立った時点で、IMU連結シートからの動作解析データおよびフォースプレートによる力学データを用いて、逆動力学計算により腰部への力学的負荷を算出した上で、脊柱のダイナミクスに関して統合評価を行い、当初の予定であった計測手法の改善およびデータ使用方法の検討と対象者の増加を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2~3年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により研究計画に一部変更が生じた。具体的には研究成果を発表予定であった学術大会が中止あるいはWeb開催となった。同様に、計測実施施設等への移動機会も減少したことにより交通費および計測に伴う物品費の支出が予定より減額した。一方、令和4年度は、成人を対象とした精度検証実施へと計画を変更し、実際の計測検証を行う予定であり、その際に必要な交通費および物品費を次年度使用額にて補う。また、これまでに中止あるいは延期となった学術大会においても積極的に成果発表および専門家との情報交換を行う予定であるため、令和4年度に参加予定でなかった学術大会の参加必要経費についても次年度使用額にて補う。さらに、得られた成果を論文にまとめ成果報告を行うにあたり必要となる、原稿校正費や論文投稿料についても次年度使用額にて賄う。
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