脳卒中患者の歩行再建に対する、効果的な歩行ニューロリハビリテーションは未確立である。その原因は、脳卒中患者の歩行における異常な下肢運動パターンの神経メカニズムが未解明であることや、歩行再建の治療指標となる神経学的なバイオマーカーが存在しないことにある。本研究は、歩行中の脊髄神経経路の働きに着目し、脳卒中患者の歩行の異常パターンの脊髄における神経メカニズムを解明するとともに、脊髄神経学的なバイオマーカーを確立することを目的に開始し、研究を継続している。 2022年度は、前年度までに開発した歩行中の脊髄相反性抑制評価システムを用いて計測を実施した。健常者における基礎データの取得を、新たに12名で実施した。脳卒中患者においては、1名のデータを追加取得した。 研究期間全体を通して実施した研究の成果として、まず健常若年者においては、歩行中にもっとも抑制が強くかかる歩行時期(bin)に個人差はあるものの、立脚期から遊脚期への移行期、および遊脚期から立脚期への移行期で抑制がかかり、平均で40%程度の抑制量であることが明らかになった。脳卒中患者においては、発症後期間が短い者においては歩行中の抑制は認められるが、その抑制量は健常若年者に比較して少ないことが示唆された。これらの成果により、脳卒中患者の歩行再建に向けた脊髄神経学的バイオマーカーになり得る、歩行中の脊髄相反性抑制評価方法が確立し、健常者のコントロールデータが得られた。
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