高齢化社会に突入している本邦においては高齢者の摂食嚥下障害への対策は非常に重要であり,摂食嚥下障害では嚥下反射中の舌骨挙上が障害されることが多い.舌骨を挙上させる舌骨上筋群に対する電気刺激療法の有効性は証明されているが,疼痛のために十分な刺激は行えていない.磁気刺激は疼痛が少ないが,刺激に用いるコイルが大きく,小さな舌骨上筋群の刺激は困難であった.われわれは舌骨上筋群刺激専用の小型コイルの開発に成功し特許を取得した. 本研究は摂食嚥下障害患者に対する舌骨上筋群の磁気刺激の有効性を無作為化比較試験で検証することを目的とした. 2020年度に予備試験として,無作為化比較試験の実現可能性を確認し,2021年度,2022年度に無作為化比較試験を行った.当院回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者を対象とし,無作為に磁気刺激群,または非磁気刺激群に1:1で割り付けた.磁気刺激群は通常の言語聴覚士が行う摂食嚥下訓練の中で舌骨上筋群への磁気刺激を1週間に5日,3週間実施した.磁気刺激は,30Hzで刺激時間2秒間,休止時間2秒間として1日90回とした.非磁気刺激群は通常の訓練のみの実施とした.主要評価項目は喉頭侵入・誤嚥の重症度スケールの変化,副次評価項目は開口筋力,舌圧,舌骨移動距離,摂食嚥下障害患者の臨床的重症度分類の変化,安全に摂取可能な食事形態および食事姿勢の変化,videofluoroscopic dysphagia scale(VDS),磁気刺激中の疼痛として,両群ともに研究開始前と開始3週間後の2回評価した. 2022年度は COVID-19感染症による回復期リハビリテーション病棟のクラスターなどにより,患者,評価や訓練を担当するスタッフがプロトコール通り行うことができず脱落例が多く,研究は完了していない.中間解析は行わないプロトコールのため,途中結果は不明である.
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