精神科医療では、近年、入院医療から在宅医療への「地域移行」を進める体制が強化されており診療報酬改定などにも反映されている。治療抵抗性の精神症状により長期間の入院治療を余儀なくされる患者も多数であるが、長期入院に伴う身体機能や日常生活活動の低下が地域移行を阻害している場合も多く、理学療法、特に運動療法を併用することによる地域移行への有用性を検証することを目的としている。 本年度は精神科専門病院2施設において、78名の慢性期精神病棟入院患者の活動量、身体機能、精神症状、認知機能、生活動作能力などの評価を実施した。慢性期精神病棟入院患者では、地域生活者に比してロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルの有病率が明らかに高く、精神症状とともに入院生活による低活動が大きく影響している可能性が示唆された。一方で、病院という限られた環境における日常生活では、家事や食事の準備などの応用的生活動作を自ら行う必要性がなく、スケジュールや活動範囲がかなり限定的で変化を生じないため、入院に限った日常生活動作は比較的維持され介助を要す状態には至りにくい傾向を認めた。しかし、医療者側が具体的な地域移行を検討する場合には応用的生活動作の自立も必要と考えるため、精神症状が安定している患者であっても、生活能力の不安が阻害要因として大きく影響していた。 これまでの精神科医療におけるリハビリテーションとは精神科作業療法を意味してきた。精神科作業療法の実践は非常に重要であるものの、慢性期精神病棟において長期入院患者の地域移行を実現していくためには、精神症状の安定以外に身体機能や運動機能、移動能力や日常生活活動を回復、改善する必要性が高い。精神科リハビリテーション治療では、精神科作業療法に加えて、精神科理学療法として運動療法を積極的に実施することが重要であり、リハビリテーション医学の新領域と認識する必要がある。
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