脳卒中後疼痛患者およびその動物モデルを対象とした研究から,島皮質の活動が病的疼痛に関連していることを示すエビデンスが示されている.本研究の目的は脳の深い場所に位置する島皮質の活動を遠隔に制御し,感覚知覚を変容させる脳電気刺激手法を開発することであった.2021年度までの実験では,健常成人における小脳と島皮質における神経ネットワークの存在を安静時脳活動から見出しており,小脳が刺激のターゲットとなりうることを示してきた.2022年度においては,MRI装置内で刺激可能な非侵害性電気刺激装置を使用し,Functional MRIによる脳活動計測中に小脳刺激を行うことで,島皮質の活動が変化するのか検証した.対象は20名の健常成人とし,まず安静時脳活動を計測し,次に刺激中の脳活動を計測した.この時には小脳および前頭前野に配置した非磁性体電極から経頭蓋交流電気刺激(tACS)を行った.tACS刺激の周波数は70および200Hzとし,それぞれ30秒間の刺激を行った.また,Sham刺激として,最初の2秒間のみ刺激する条件も設定し,計3条件のブロックデザインにて計測を実施した.なお,tACSの実施では被験者に不快感や疼痛の知覚を生じさせなかった.解析の結果,Sham条件と比較して,両刺激条件においては有意な島皮質の活動変化は確認できなかった.しかしながら,個人ごとの結果を確認すると,条件間に差が出る被験者もおり,効果の個人差が非常に大きいことが明らかになった.現在,個人ごとの効果の違いと刺激前に計測した安静時脳活動のネットワーク解析を行っており,バラつきの背景メカニズムを調べている.本研究課題によって,小脳が島皮質と神経ネットワークをもつことが明らかになり,このネットワークを利用した脳電気刺激には個人間の差が顕著に存在することが明らかになった.
|