引き続き脳卒中患者を対象としたデータ計測を継続しながら、上肢運動用ロボットKINARMを使用して計測した到達運動の分析を進めた。参加者となる脳卒中片麻痺患者には、ロボットアームに上肢を置いた状態で、開始肢位(肩関節水平内転30度、肘関節屈曲90度)から0度:45度:315度の8方向に現れる目標点に向けて水平面上での到達運動を繰り返し実施してもらった。運動機能の変化を定量化するため、手先位置の軌跡長等を運動指標として算出し、入院初期と退院時のパフォーマンスを比較した。分析の際には、麻痺側上肢の運動麻痺の重症度に基づいて参加者を軽度麻痺群、中等度-重度麻痺群の2群に分類した。 軽度麻痺群(15名)は、麻痺側到達運動の軌跡長が非麻痺側の軌跡長に比較して顕著に延長していた。ところが、平均21日の入院期間を経て退院する際には、入院初期と比較して軌跡長が有意に減少していることが確認された。退院時には運動機能の程度を反映する臨床上の評価スコアも有意に上昇していた。このことから、軽度麻痺群の麻痺側上肢の運動機能は、手先位置の軌跡長を用いることでより詳細に定量化できる可能性を示した。一方で、中等度-重度麻痺群に属する参加者の多くは目標点までの到達運動を達成することが困難であることから、代替指標として手先位置の運動総変位量を算出した。その結果、入院初期に比較して退院時の運動総変位量は大きく増加することが明らかとなった。このことから、中等度-重度の運動麻痺を呈する場合には、手先位置の運動総変位量を用いることで機能改善を定量化できることが示唆された。 今後はこれら麻痺側上肢の運動機能を反映する運動学的評価指標に基づき、運動機能改善に付随して生じているであろう電気生理学的評価の変化などの統合的分析を進めていく。
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