二点識別覚(TPD)は,高次の知覚機能の評価指標として古くから用いられてきている.加齢や神経学的病態に伴いTPD閾値が上昇することが報告されており,それに伴い一次体性感覚野(S1)の活動領域が縮小してしまうことや,後頭頂皮質(PPC)の活動が低下してしまうことが報告されている.これまでに,脳律動におけるα帯域活動(8~13 Hz)の増大が知覚機能に影響を与えることが報告されているが,TPDの処理過程において異なる役割を担うとされる左PPCとS1のα律動の増大がそれぞれどのような影響を与えるかは不明である.そこで,脳律動を非侵襲的に調整することが可能な経頭蓋交流電流刺激(tACS)を用いて,TPDへの関与が大きいとされるS1および認知段階での責任領域とされるPPCのα帯域活動を強化させ,各領域がTPDに与える影響を検証した. 特注による二点式触覚刺激装置を用いて,左PPC直上での10 Hzのα-tACS中に,右示指指腹に対するTPD測定を行った.ロジスティック回帰により50%閾値を求め,sham刺激中(fade in/ outの20 sのみ刺激)の TPDと比較した(実験1).同様の方法により,左S1刺激中のTPDを測定し(実験2),それぞれの実験におけるTPD変化量(sham条件の50%閾値-tACS条件の50%閾値)を求めた.実験1および実験2の結果から左PPCおよび左S1の変化量を比較することで,α-tACSのTPDに対する領域特異的効果を検討した.左PPCに対するα-tACSはTPD閾値を低下させ(p = 0.010),左S1に対するα-tACSはTPD閾値に変化を及ぼさず(p > 0.05),64.7%の被験者で上昇した.領域ごとの変化量の比較では,左S1と比較して左PPCに対するα-tACSは,有意にTPD閾値を低下させた(p = 0.003).
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