本研究は、腱障害の発症における腱温上昇の影響、ならびに腱の温度恒常性維持メカニズムを明らかにすることを目的とした。 2022年度は、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸それぞれを分解することが、運動によって誘発される腱の温度上昇におよぼす影響を検討した。ラットを対象とし、アキレス腱にコラーゲナーゼ、エラスターゼ、もしくはヒアルロニダーゼを注射することで、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸をそれぞれ科学的に分解した。その後、ラットにトレッドミル走を行わせ、アキレス腱の温度変化を調べた。その結果、ヒアルロン酸を分解した群において、対照群と比べ、運動による腱の温度上昇幅が有意に大きかった。弾性線維であるエラスチンや腱の主要な細胞外基質であるⅠ型コラーゲンを分解しても、運動による腱温の変化は対照群と差がなかった。このことから、運動中の腱温制御には、腱に含まれるヒアルロン酸が重要な役割を担うことが明らかとなった。 また、アキレス腱にコラーゲナーゼを注射することで作成したアキレス腱症モデルラットにおいて、損傷部位の状態がリモデリング期になると、伸張性収縮運動(下り傾斜トレッドミル走)後の血流増加時間が延長することが明らかとなった。さらに、ドップラ信号の周波数解析の結果、運動後の血流増加時間の延長には、血管平滑筋の活動変化が影響した可能性が示唆された。 研究期間全体を通して、1)運動による腱の温度上昇の制御には血流は関与しないこと、2)腱に含まれるヒアルロン酸の存在が運動時に腱の温度を上がりにくくしていること、3)腱症に罹患した腱における伸張性収縮運動後の血流増加時間は、血管平滑筋の活動変化によって延長する可能性があることが明らかとなった。 現在、温熱刺激の反復が腱細胞の遺伝子発現におよぼす影響などを解析中である。
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