研究実績の概要 |
脳卒中片麻痺患者の多くに認められる下肢の筋萎縮は、起立や歩行を阻害する重要な要因である。片麻痺患者の麻痺側の膝関節伸展筋力および股関節外転筋力は 歩行速度や歩行自立度と関連が強く、それぞれの主動作筋である大腿四頭筋および中殿筋の筋萎縮を防止・改善することは歩行を早期に再建する上で重要であ る。 筋萎縮予防や筋力低下の改善に有効な治療手段である電気刺激療法では、強い筋収縮を誘発できればより高い治療効果が得られるが、皮膚に発生する疼痛 のため に十分な刺激が与えられないことも多い。大腿部や殿部などは電極を貼付するために肌を露出しなければならず、実施には配慮が必要かつ準備に時間を 要するこ とから臨床では積極的には実施されていない。 磁気刺激はパルス磁場による誘導電流によって筋肉内の細胞膜に脱分極を生じさせるため、深層の末梢 神経や筋を皮膚に存在する侵害受容器を刺激することなく 興奮させることが可能である。さらに、磁気刺激は非金属を通すため、衣服の上からでも刺激が可能 であり、大腿四頭筋や中殿筋への刺激も容易であることか ら、電気刺激に代わる治療法として期待される。 本研究の目的は、末梢神経への連続パルス磁気刺激 による筋萎縮および筋力低下に対する治療効果を検証し、歩行再建に有用な治療法を確立することである。 2022年度は、新たに2名の患者(脳梗塞, 胸髄損傷)に対して、片側の大腿四頭筋に磁気刺激を行い、膝関節伸展筋力および大腿直筋の筋厚の変化を検証した。刺激側の膝関節伸展筋力は介入前に対して、脳梗塞患者は110%、胸髄損傷患者は118%に増加した。大腿直筋の筋厚は、それぞれ0.1mm、7.4mm増加した。2症例とも歩行は要介助状態であり、三次元トレッドミル歩行分析の実施が困難であった。
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