本研究では、栄養素がもたらすミトコンドリア(Mito)機能の向上の背後にmicroRNA(miRNA)を介した遺伝子発現抑制機構の関与を独自の視点と置き、miRNAsを外的に制御しながらMito生合成をより強く上方調節することへの可能性について検証することを目的としている。令和4年度は、昨年度の結果を基にin vivoモデル(ラット筋損傷モデル)の構築を行った。足底筋損傷後のMito-DNA量は損傷3日後をピーク有意に減少し、その後は時間の経過に伴い損傷28日後までに非損傷筋レベルへ向けて回復した。Mito関連タンパク質(PDH、COX-IV、VDAC)の発現動態もほぼMito-DNA量と同様の挙動を示したが、VDACのみ、損傷28日後の値が非損傷筋と比較して有意に低いままであった。足底筋損傷後、損傷1日後の時点で筋細胞特異的な酸素輸送担体であるミオグロビンの発現がほぼ消失し、損傷5日後まで再発現が認められなかった。その後、損傷5-7日後にかけてミオグロビンが再発現し、時間の経過とともに損傷28日後までに非損傷筋レベルへ向けて回復した。Mito生合成のマスターレギュレーターであるPGC-1aの発現量は、再生過程においてMito-DNA・関連タンパク質とほぼ同様の挙動を示した。一方、Mito生合成や機能に関わるmiRNAs(miR-494とmiR-146a)の発現量は、再生過程を通じて有意に変化しなかった。以上の結果から、筋再生過程におけるMito生合成は損傷3-5日後から誘導され始め、ミオグロビンもそれに連動するがごとく発現量を増加させるが、miR-494とmiR-146aはこの間のMito生合成には関与しない可能性が示唆された。今後は再生過程初期における栄養基質の添加が、これらmiRNAsを調節することによってMito生合成を亢進し得るか検証を進めていく予定である。
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