伸張性収縮に伴う筋および神経損傷は、スポーツ現場で頻繁に観察される遅発性筋痛や肉離れ損傷の現象との関連性が指摘されているため、伸張性収縮が筋および神経に与える影響を理解することは重要である。そこで本研究では、ヒト伸張性収縮モデルを用いて「伸張性収縮による繰り返し効果は神経機能も保護するか」という問いを設定・検証することを目的とした。 2020年度から2021年度は、実験Ⅰとして、ヒト短母指屈筋における伸張性収縮運動の対側の繰り返し効果は、神経伝導速度にも起こるのか検証した。神経伝導速度検査は臨床でも用いられている短母指屈筋を運動実施筋群に設定し、伸張性収縮を負荷する機器を用いて、これまでに確立した神経損傷モデルを用いて繰り返し効果のメカニズムを解明することを目的に実験を実施した。32名の若年男性を対象とし、全員が片方の短母指屈筋に伸張性収縮運動(10回、10セット)を実施した後、2週間の間隔および、4週間、8週間の間隔をあけて両手の短母指屈筋に1回目の運動と同様の運動を実施させた。3群間によるインターバルの違いが繰り返し効果に及ぼす影響について比較・検討した結果、運動神経伝導速度に加え、感覚神経伝導速度の遅延を確認したものの、神経伝導速度において繰り返し効果はみられなかった。 2022年度は、実験Ⅱとして、下肢筋力低下から惹起される転倒予防やサルコペニア予防の観点から、膝伸展筋群における伸張性収縮モデルにおいても、繰り返し効果は骨格筋のみならず神経にも起こるのかという問いを検証することが目的であった。まずは、19名の若年男性を対象にペダル駆動型筋力測定器を用いて、膝伸展筋群に伸張性収縮運動を実施させ、筋損傷が起こることを確認した。しかしながら、膝伸展筋群における伸張性収縮モデルでは、繰り返し効果および神経伝導速度についての検証は実施できなかった。
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