定期的な運動が脂肪組織からの血中eNAMPT放出を高めて海馬NAD+量を増加させ、このことが身体不活動による認知機能の低下やうつ様症状の発症の予防に貢献するか否かについて解明することを目指した。まず、一過性のトレッドミル走運動強度による血漿eNAMPT 量の変化をタイムコースで観察し、かつ運動強度と関係させて検討した。雄のC57BL/6Jマウスに一過性の低強度(10m/min、1時間)、中強度(20m/min、1時間)、高強度(20m/min〜疲労困憊、約30分)トレッドミル走運動を課し、運動前、運動1、2、4時間後に採血し、血漿eNAMPT量をWestern blot法により定量した。その結果、運動前と比較して低・中・高運動強度の1時間後でeNAMPT量の有意な増加が認められた。これらの結果は運動強度に依存ではなく、運動自体がeNAMPTの量を増加させる可能性が示唆された。次は、定期的な運動が身体不活動由来の認知機能低下及びうつ様症状の発症の予防に貢献するか否かについて検討した。8週齢のマウスを無作為に(1)通常飼育群、(2)身体不活動群、(3)身体不活動+運動群の3群に分けた。(1)群は通常のマウス用飼育ケージで飼育し、(2)、(3)群は我々が考案した6分割ケージに飼育し、更に(3)群は低強度運動(10m-15m/min)で週3回、30時間のトレッドミル走を行わせた。この条件で20週間飼育後に行動試験を行った。その結果、定期的な低強度運動は長期間の身体不活動による認知機能の低下やうつ様症状を回復させ、長期間の身体不活動による海馬の血管密度、海馬の血管内皮細胞増殖因子発現、脳由来神経栄養因子の mRNAの発現、Ki-67陽性細胞の減少も予防させた。これらの結果は、不活動がもたらす認知機能の低下やうつ様症状の発症に対する運動の予防効果を明らかにした。
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