本年度は運動により増加することが確認されたArcadlinの機能を解析するために、Arcadlin KOマウスの行動解析ならびに生化学解析を実施した。 雌雄のAcad+/-マウスを交配し、Acad+/+(WT)ならびにAcad-/-(KO)マウスを作出し、2から3月齢にて自発行動・情動・学習に関わる行動解析を実施した。行動解析は、オープンフィールド試験、高架式十字迷路試験、Y迷路試験、バーンズ迷路試験の順に行った。行動解析終了後、生化学解析のために海馬をサンプリングした。 オープンフィールド試験において、KOマウスのセンターゾーンでの滞在時間が有意に減少しており、不安様行動の増加が示唆された。また、バーンズ迷路試験においては、学習期間後のプローブ試験にて標的ホール周辺での滞在時間がKOマウスにて有意に低下しており、空間記憶学習障害が示唆された。 分子機序の探索を目的として、海馬サンプルを用いてwestern blottingによる生化学解析を実施した。その結果、シナプスマーカー(synaptophysinおよびSynapsin 1)のタンパク質発現量に顕著な変化は観察されなかった。また、海馬苔状線維終末に局在するsynaptoporinに関しても変化は見られなかった。同様に、興奮性シナプスマーカー、抑制性シナプスマーカーの発現量に関しても、顕著な変化は観察されなかった。 以上より、Arcadlinは不安様行動ならびに長期記憶学習に関与しており、その機序はシナプス分子の発現制御によらないことが示唆された。
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