本研究では,低酸素トレーニング時における骨格筋(筋酸素飽和度:StO2)および血液中(動脈血酸素飽和度:SpO2)の酸素飽和度がトレーニング効果に及ぼす影響を検討するため,異なる酸素濃度環境下(標高0m,2000m,3000m,4000m相当)での有酸素性運動時(研究1)およびレジスタンス運動時(研究2)における両指標の変化と生理応答の関連性を検討した. 研究1では,上記4種類の酸素濃度下において自転車エルゴメーターを用いた多段階負荷試験を実施した.その結果,酸素濃度が低下するにつれて最大酸素摂取量は有意に低下し,SpO2も同様に低下が認められた.心拍出量は標高3000m相当の低酸素環境で低下が認められ,StO2は4000mで低下が認められた.したがって,酸素濃度が低下するにつれて,中枢性の循環調節機能が低下したのち,末梢への酸素供給が低下する可能性示された.また,最大下強度においても同様であった.このことから,最大下強度での持久性運動において,安全に配慮できる範囲での酸素濃度の低下させることによって末梢での酸素利用能を高める効果が期待できる可能性が示された. 研究2では,上記4種類の酸素濃度下でレッグエクステンション運動を実施した.その結果,酸素濃度が低下するにつれてSpO2が低下した.一方で,運動中のStO2には酸素濃度間で有意差は認められなかった.また,運動直後の血中乳酸濃度にも有意差は認められなかった.このことは,低酸素環境におけるレジスタンス運動において,血中の酸素濃度が低下したとしても,骨格筋内でも酸素利用の低下が必ずしも起こっていないことを示唆した結果である. 以上のことから,有酸素性運動,レジスタンス運動のいずれにおいても血中と骨格筋内の酸素飽和度の変化が一致するとは限らず,運動の種類やプロトコルによって選択すべき酸素濃度が異なる可能性があることが示された.
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