本研究課題の目的は,成熟度の個体差が著しい年代における運動能力,運動器の形態および内分泌機能(ホルモン応答)の成長に伴う変化と運動に対する適応について明らかにすることである.研究期間を通して,同暦年齢カテゴリーに属する日本人若年バスケットボール選手を対象に形態,運動能力およびホルモン応答を測定し,比較を行った.結果として,最大身長発育年齢(Age at Peak Height Velocity; APHV)経過後の群(post PHV群)はAPHV到達前の群(pre PHV群)に比べて形態(身長,体重,大腿直筋の筋厚),運動能力(垂直跳び,20m走速度)および安静時テストステロン濃度が有意に高値を示した.一方で,中学生年代の対象者における運動に対する一過性のホルモン応答については,大学生年代に比べて有意に低い反応を示した.また,年間変化の解析においても,中学生年代男子のテストステロン濃度は成長に伴って増加するものの,運動に対するホルモン応答の縦断変化は認められなかった.これらの結果から,成熟度の個体差が形態,運動能力および内分泌応答に影響を及ぼすこと,中学生年代男子アスリートに対するトレーニングの目標設定において,筋肥大の優先順位は低い可能性が示唆された. また,若年アスリート(U22バスケットボール競技者)のスポーツ外傷・障害に関する調査を行った.結果,日本人男子大学バスケットボール競技者はNCAA男子バスケットボール競技者に比べて高い外傷・障害発生率を有し,特に足関節捻挫については発生率が2.1倍であったことが明らかとなった.一方で,スポーツ現場での判断,対応が重要とされる脳振盪の発生率はNCAAに比べて約1/3の発生率であった.本研究の結果から,日本のスポーツ現場における医学的環境の充足度が本研究の結果に大きく影響を及ぼした可能性を示唆した.
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