研究課題/領域番号 |
20K19517
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
山口 慎史 順天堂大学, スポーツ健康科学研究科, 特任助教 (60847630)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヴァルネラビリティ / グリット / ハーディネス / メンタルヘルス |
研究実績の概要 |
2020年度は、「ヴァルネラビリティに影響を及ぼす心理的要因の解明」をテーマに研究を進めた。本テーマで扱うヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)には、対に位置づけられる心理的概念として、ハーディネス(心の頑健性)、レジリエンス(精神的回復力)、グリット(やり抜く力)などが挙げられる。これらの心理的要因との関連についてはほとんど明らかにされてきていなかった。そのため、2020年度では、ヴァルネラビリティ、グリット、ハーディネス、メンタルヘルスの指標を用いて研究を進めた。 2020年度の主な研究実績としては、ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)とグリット(やり抜く力)の関連性を検討した上で、これらの2変数がメンタルヘルスにどのように影響するかを検討した。その結果、傷つきやすさとやり抜く力には負の相関関係が見られた。つまり、傷つきやすい者ほどやり抜く力が低く、傷つきにくい者ほどやり抜く力が高いことが明らかとなった。また、傷つきやすくてやり抜く力が低い者ほどメンタルヘルスが不調であることが示された。一方で、傷つきやすくてやり抜く力も高い者もメンタルヘルスが不調になりやすいといった新たな知見が得られたことから、これらの背景には燃え尽き症候群が関連している可能性も考えられた。また、ハーディネスついては、今後研究を進展させるために必須であったアスリート用の尺度を一般化することができた。本研究においても、ハーディネスが高いことで、抑うつ症状が軽減することが明らかとなり、グリットと同様にヴァルネラビリティとの関連およびメンタルヘルスへの影響について詳細に検討していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究目的であった「ヴァルネラビリティに影響を及ぼす心理的要因の解明」はおおむね順調に進展している。ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)とグリット(やり抜く力)との関連では、予想していた仮説の結果となった反面、傷つきやすくてやり抜く力が高い者もメンタルヘルスを害しやすいといった結果は新たな発見であった。 アスリート・スポーツ選手を対象とした傷つきやすさに関する研究、グリットおよびハーディネスに関する研究は、依然として少ない。その中で、現在は基礎研究の蓄積を行いつつ、グリットやハーディネスといった心理的変数を新たに扱い研究を進展させている。また、グリットやハーディネスをそれぞれ単独で扱った研究も行い、先行研究を少しずつであるが増やしている。具体的には、2019年度、2020年度では、ハーディネスとメンタルヘルスおよび抑うつ症状との関連、グリットとメンタルヘルスとの関連などを実施した。これらの結果は、ヴァルネラビリティとは逆の結果となっており、ハーディネスやグリットが高いと、抑うつ症状が低い(メンタルヘルスを害しやすい)ことを意味している。 これら2019年度、2020年で得られた研究成果、知見を踏まえ、学会発表を随時行い、論文化し、国内外の学術雑誌に投稿する準備をしている段階である。また、2020年度で発表を行なえなかった研究データについても2021年度に発表か論文投稿をする予定であり、本研究テーマについては順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究としては、「競技活動の実施によるヴァルネラビリティの変化の証明」をテーマに研究を行う予定である。これまでの研究では、大学の競技志向の運動部、クラブ活動に所属するアスリートを対象にアスリート用の傷つきやすさを測定する指標を用いて研究を進めてきたが、一般大学生を含めた調査、研究は今日までに行われてきていない。 そこで2021年度は、一般大学生と競技を継続している大学生アスリートを対象に傷つきやすさに関する研究を行う。具体的には、ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)、グリット(やり抜く力)、ハーディネス(心の頑健性)、抑うつ症状および、競技経験の有無等を一般大学生と比較することにより、「競技を行う者ほど傷つきにくいのか」「運動・スポーツの実施は精神的に強くなるのか」といった問いについて明らかとなる。その際、競技用の傷つきやすさの指標に加えて、日常生活で感じる傷つきやすさの指標を合わせて測定することにより、対象者個人の傷つきやすさを多角的に把握することが可能となる。なお、上記の研究を実施するに際し、現在、日常生活で感じる傷つきやすさに関する指標を開発中であり、この指標が一般化されることにより、本研究テーマの幅が格段に広がる。加えて、2020年度に得られた研究成果および知見をまとめ、学会発表が出来なかったものは発表しつつ、インパクトファクター付きの国際誌および国内の学術雑誌に投稿していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度から開始した本研究課題は、まず、国内外の関連する知見も把握をしつつ、参考図書の購入を行った。また、研究を始めるにあたり、分析ソフトの購入をしたが、昨今のコロナウイルス感染拡大の影響により、在宅勤務が増えてしまい、学内にて消耗品や備品の購入に時間を要してしまい、本来早めの段階で買うべき物が後ろへとずれ込んでしまった。また、得られた研究成果を国内外の学会にて発表する際、学術大会が軒並み中止、延期、オンライン開催などと学会によって異なり、旅費や大会参加費の使用に変更が生じてしまった。2021年度もコロナの影響が少なからずあるため、先を見据えて早めの対応を心掛けて研究を進めていく。
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