2023年度は、研究目的で掲げている「ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)に関するメカニズムの解明」を深めていくために、大学生を対象にヴァルネラビリティとその他の心理的変数との関連や影響について検討していった。これまでの研究課題成果で、傷つきやすさが高いことで抑うつ症状や希死念慮の得点も高いといった正の関係性が明らかになっていることから、2023年度ではその関係性(関連)が実際はどの程度影響しているのかをより詳細に見ていった。その結果、傷つきやすさを構成する各要素(関係の悪化、批判や否定、対人的な不和、自己の逃避)が抑うつ症状に正の影響を示し、抑うつ症状が希死念慮に正の影響を及ぼしていることが明らかとなった。このことから、傷つきやすいことで、落ち込みや憂うつといった抑うつ症状が生起され、抑うつが重篤であるほど「死にたい」という思考に繋がる過程を発見することができた。 国内外においてヴァルネラビリティに関する研究知見がほとんど見受けられない中で、本研究課題では「ヴァルネラビリティの心理的要因を多面的に捉え、傷つきやすさに関するメカニズムを解明し、心理サポートへの応用を見出すこと」を目的としていた。 研究期間全体(2020年~2023年度)を通じて実施した研究の成果としては、グリット(やり抜く力)メンタルヘルス、抑うつ症状、希死念慮などの心理的概念との関連や影響について検討した。また、研究代表者が作成したアスリート用の傷つきやすさを測定する指標だけでは競技生活での傷つきやすさしか見ることができなかったため、本研究課題では2021年度に日常生活で感じる傷つきやすさを測定する指標を開発した。この指標ができたことにより、今まで競技場面と限定した解釈しかできなかったが、ヴァルネラビリティを多面的に捉えることができ、研究の幅を拡げることに繋がった。
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