研究実績の概要 |
本研究は, 中高齢者を対象として, (1)長年に亘る運動習慣がエピジェネティック時計に及ぼす影響, (2)全身持久力の違いがエピジェネティック時計に及ぼす影響, (3)長期的な運動トレーニングがエピジェネティック時計に及ぼす影響を検討することで, 運動が生物学的老化を遅延・逆転するのか否かを明らかにすることを目的としている.今年度は, 事前の研究計画に沿って, 上記の(1)と(2)の研究課題に取り組んだ. 研究課題(1)では, 2019年にハンガリー・ブダペストにて開催されたWorld Rowing Masters Regattaに参加した中高齢男女のアスリート180名と, 同年代の座りがちな者のDNAサンプルを用いてエピジェネティック時計の解析を行った.その結果, 中高齢アスリートでは, 同年代の座りがちな者と比較して, エピジェネティック時計(GrimAge)の進行が抑制されることが示唆された. 本研究で得られた知見は, 長年に亘る運動習慣が生物学的老化を遅延させる可能性を示唆するものである. 今後は, 両者の因果関係や, 生物学的老化の遅延に貢献する体力要素を明らかにしていく必要がある. 研究課題(2)では, 所属機関が実施するコホート研究に参加する65歳以上の高齢男性81名を対象に, 全身持久力とエピジェネティック時計の関係性の検証を進めている. 本年度は, 対象者81名(最高酸素摂取量の平均値±標準偏差:34.1±9.2 mL/kg/min)の血液試料からDNAを抽出するとともに, これを海外に輸送・解析するための倫理的手続きを完了した. 今後は, 令和3年度の9月を目途にDNAサンプルの解析を完了する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度(令和3年度)は, 研究課題2のDNAサンプルの解析を9月までに完了させる. 一方, 研究課題3における運動トレーニング介入は, 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により, 実施の見通しが立たない状況にある. そのため, 研究課題3については, 運動トレーニング介入の実施を模索しつつ, 動物実験への代替も検討する.
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