研究課題/領域番号 |
20K19521
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川本 裕大 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10828677)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スポーツ障害 / 関節負荷 / 肘関節内外反トルク / シミュレーション / ツイスト動作 / ラケット速度 |
研究実績の概要 |
本研究においては、グラウンドストローク動作を対象に、全身の動作解析を通して関節への負荷が大きくなる原因を明らかにして、スポーツ障害の予防法を確立することを目的としている。昨年度までに、肩の内外旋トルクの最大値が大きい被験者は肘の内反トルクや手首の掌屈トルクが大きいことが明らかになった。そこで、本年度は肩関節の内外旋トルクが大きくなる動作の特徴について明らかにすることを目指した。まず、下肢で生み出されるエネルギーが十分でない場合、肩を含む腕の関節でエネルギーを生み出す必要があり、肩の内旋トルクが大きくなる可能性があると考えた。そこで、地面を強く蹴りだし、体が打撃方向に大きく移動するような教示をした際の動作と、通常の動作を比較した。教示によって下肢で生み出されるエネルギーが増加し、全身の運動エネルギーは増加したが、ラケット速度を増加させることはできなかった。また、肩関節の内旋トルクは両条件で同様であった。そこで、肩関節内旋トルクを変化させる他の方法について思索した。ボールインパクト前に体幹を打撃方向と逆向きに回転させた場合、肩関節において腕が打撃方向と逆向きに引っ張られる。腕とラケットの重心が上腕の長軸より上側に位置している場合、肩関に作用する力が大きくなるほど肩の内旋が加速すると考えられる。このように体幹の動きのみを変更したい場合には、実動作の解析ではなくシミュレーションが有効である。そこでシミュレーションのプログラムを完成させ、インパクト前に体幹を打撃方向と逆方向に強く回転させる動作を生成した。生成された動作では、実動作と比べて肩関節で発生する力の大きさが増加し、それに伴ってラケット速度が増加することが明らかになった。補正した動作と、補正前の動作でラケット速度が一致するように時間間隔を変更することにより、公平に比較すると肩関節内旋トルクが減少することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では本年度までに負荷を低減する動作の指導方法の考案に取り掛かる予定であったが、関節負荷が変化するメカニズムを明らかにするのは難しく、指導法を考案することはできなかった。一方で、負荷が変化するメカニズムに対して2つの仮説を立て、1つ目の仮説は動作解析を通して検証作業を完了し、2つ目の仮説に関しては、3次元のシミュレーションプログラムを完成させて検証作業にとりかかることができた。シミュレーション研究においては、体幹を打撃方向と逆方向に回転させることでラケット速度が増加することが明らかになった。昨年度までの研究を通して、ラケット速度が大きくなるほど関節の負荷が増加する傾向があることが明らかになっているが、作成済みの時間間隔を変更するプログラムを用いて、シミュレーションにおいて補正された動作と実動作のラケット速度が一致するように時間間隔を変更することで、関節の負荷を公平に比較することができる。関節の負荷が低減するようなら、それが負荷を低減させる方法となる。以上より、当初の計画と比べてやや遅れてはいるものの、すぐに遅れを取り戻せる可能性があるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、時間間隔を変更してラケット速度を一致させて動作解析を行う手法を身に着けている。来年度は3次元シミュレーションを用いて生成した、インパクト前に体幹を逆方向に回転させるように補正した動作に関して、補正前の動作とラケット速度が一致するように時間間隔を変更して比較する。補正動作において肩関節で発生した力が大きくなることまでは確認ができたため、この力が肩関節の内旋に作用して、結果的に肩関節の内旋トルクを小さくできるかについて調べていく。また、それに伴って肘の内反トルクや手首の掌屈トルクを小さくすることができるかを調べていく。さらに、体幹を打撃方向と逆方向に回転させる力を減少・増加させ、各関節の負荷がどの程度変化するかを調べることでその効果の大きさについて明らかにする。関節の負荷が大きく減少しない場合は、他の関節に関して同様の解析を繰り返し、関節の負荷が変化するメカニズムを明らかにする。最終的には関節の負荷が変化するメカニズムを参考にして、負荷の小さい動作の指導法を考案する。実際に選手に指導を行い、指導前と指導後の動作を解析し、関節の負荷を定量することで、負荷を低減させる指導となりうるか確かめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症まん延により、計画していた実動作の解析の一部をコンピュータシミュレーションで代用したため、必要となる実験機材が今までのところ不要であった。次年度に計画している実験に必要な機材を購入する予定である。
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