研究課題
ヒトの形態的特徴は、たとえ同じ人種や年齢、性が同じであっても個人差は大きく、相同モデルを用いることで異なるかたち同士がどれだけ違うのか、あるいは共通する部位はどこなのか、個人差を定量的に評価できることが明らかになり、令和2年度の成果である。BMIの違いにおける体の「かたち」の特徴は、体重増加に起因する体脂肪の増加によって定性的にすべての周径囲が高い傾向であり、特に上腕部や腹部から大腿部上部にかけて、より肥満体型を特徴づける部位であることが示された。これらの結果は、形状変化の可視化に加え、変異パターンの傾向を抽出することを可能にし、1次元の計測値から検出できない形状変化の特徴を評価するための有効的な手段として確立してきた。体のサイズを考慮するため一般的に用いられている、Body Massやローレル指数、カウプ指数は、推定値であると同時に個人差は考慮されていない。このことからも、この伝統的な形態計測の測度に関係しない、捉えられない身体部位こそ、新たな知見であることが示唆された。また、伝統的な形態計測では検出できない形状変化を明らかにすることができ、一般的に形態は長育、周育、幅育、量育に大別されるが、本研究で得られた結果は、その変量に捉われない新たな視点で、これまでの形態計測の決められた身体部位の測度だけでは捉えられない体のかたちを評価できる可能性を示唆した。本研究で扱う幾何学的形態測定学に基づく相同モデルを用いた形態計測が伝統的な人体寸法計測や人体形状計測より優れているわけではなく、体のサイズとかたちと分けて定量化し議論すべきである。伝統的な人体寸法計測や人体形状計測にプラスして幾何学的形態測定学に基づく形態計測を用いて、体のサイズに依存しない様々なかたちの個人差を定量化することで、より詳細な体のかたちの変化を捉えることが可能となる。
3: やや遅れている
2020年度は、全身の競技選手の体のかたちを定量的に分類化する試みとして、競技や種目に特化した形態的特徴を提示、分類し、トレーニング効果やプログラムの作成、競技選択、種目選択に役立てることが検討課題であった。しかしながら、新型コロナウイルスの世界的感染拡大の状況等から、交付申請書作成時点で記載した研究実施内容の競技団体との調整が困難であったため、計測方法の確認やデータ分析の方法論について検討を重ね、当初の研究計画内容の2021年度計画である「全身肥満体型を定量的に分類・評価する試み」を先に着手した。本研究計画を速やかに実行できる研究環境が整っており、すでに本研究の提案の予備実験は着手済みだったため、結果的に100名近い子どもから高齢者に至るまで、一般人のデータを習得することができた。今後さらに成人に焦点を当て、データ数を確保することは今後の課題である。しかしながら、興味深いことに、形態計測は、体のサイズやかたち(形状)、さらにはその動きを定量的に記録し、より客観的、数量的に評価することを意味することからも、ヒトのエネルギーの出力の大小は体のサイズに依存し、筋力やパワーの発揮出力の大小は、筋のサイズやかたちに関係するように、体のサイズが少なからずかたちをつくる根本的な要因となっていることが現時点で明らかとなった。近年、世界的に運動不足やカロリーの過剰摂取から起こる肥満の問題や医療技術の進歩・健康増進などによる世界のどの国も経験したことのない超高齢社会を迎えることについてクローズアップされており、様々な社会的健康問題を抱えた現代の生活は我々が向き合わなければならない課題であり、形態計測や身体組成の研究分野の中でも緊急に解決しなければならないテーマでもある。次年度も引き続き精力的に研究を追行し、さらに計測環境、特にデータ処理などの研究環境を改善して本研究の成果を発表して行く予定である。
2021年度に関しては、昨年2020年度の課題でもある計測環境、特にデータ処理、分析などの研究環境の改善およびデータサンプル数の確保が第一となる。効果的な運動指導の方法は普及しつつあるが、歩行や運動の基盤となる体のかたちや筋・脂肪など体を構成する組織量および身体組成の比率、姿勢については充分に周知されているとはいえず、その測定法や評価基準については必ずしも統一的な見解は示されていない。体のかたちを定量化することができれば健康や運動への関心、予防医学的な見地からも効果的な運動指導等に役立つことが期待される。BMIが同じでも脂肪・筋・骨などの体を構成する組織量の割合は必ずしも同じとは言えず、体重や身長からのIndexで正確に肥満を判定するには無理がある。肥満という言葉は誰にでも理解され易い一般的な概念であるが、具体的にどの部位に脂肪がつきやすいのかなどを明らかにすることは、形態計測において発展的かつ価値ある新たな試みである。また、研究計画書の予定通り、競技や種目に特化した体のかたちの検討に取り掛かる。日々行うトレーニングは、個人差やトレーニング内容、競技によっても効果は異なるが、競技力向上を考えるうえで、パフォーマンスよりも先に体に変化として現れる組織量や体のかたちを知ること、体のかたちを定量化することは、非常に重要である。伝統的な従来の形態計測の1つの身体部位だけではなく、決められた身体部位の測度にはない変化を捉え、形態計測に新しい視点を見出すことが期待できる。また、これまで基本的に「かたち」から「数値」としての評価にとどまっていたが、相同モデル化した個人データに対して主成分分析を行うことで、「数値」から「かたち」の抽出が可能となる。したがって、体の「かたち」の意味を捉えるとともに、従来の形態計測では捉えられない標準化した体の「かたち」の変化を定量的に評価できる。
研究費の使用に関しては主に、測定時に使用する被験者衣服や三次元人体形状相同モデル分析ソフトウェア(HBM-Rugle)、ハイスペックな解析用パソコンを購入した。現状の研究環境で対応ができたこと、また、研究発表もオンラインとなったため、研究費の出費が少し抑えられた。今年度に関しては、引き続き被験者の計測を実施していかなければならないため、被験者の皮膚に貼付するlandmarkシールや反射率を抑えた被験者衣服、相同モデル分析ソフトウェア、画像データおよび寸法データバックアップ用と画像データおよび寸法データ保存用のハードディスク、研究成果発表をするために関連学会(日本体育学会・日本体力医学会・日本バイオメカニクス学会・ISB・ISBS・ECSS・World Congress on Biomechanics)などの国内外発表を予定している。なお、2020年度の未使用額においては、研究内容の論文作成にも取り掛かるためそれに充てる予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
地域連携共同研究所年報
巻: 第5号 ページ: 69-79
日本基礎教育学会紀要
巻: 25 ページ: 55-60