本研究は, 本来リカバリーを目的としている高気圧高酸素環境下において, 血中内で溶解型酸素が増大することによるアシステッドを利用しながら有酸素運動を行うことで, 筋持久力を効率よく向上させるためのトレーニング方法を立案するための実験デザインとなっている. 研究目的は, 高気圧高酸素環境下において運動中に酸素を必要とするローパワー運動を実施し, 運動時のパフォーマンスと生体応答を検討することとした. 運動負荷実験として通常環境下と高気圧高酸素環境下において, 相対強度60%HRRのペダリング運動を20分間行ってもらい, 運動後に15分間の安静を設けた. 測定項目は, 運動中の仕事率, 最大酸素摂取量, 呼気終末二酸化炭素分圧, 分時換気量, 経皮的動脈血酸素飽和度, 心拍数, 血中乳酸濃度, ヘマトクリット 値とした. 得られたデータは全て平均と標準偏差で示し, 対応のあるt 検定, ならびに二元配置分散分析を用いて分析を施し, 有意水準はp < 0.05とした. 結果として, 高気圧高酸素環境下における仕事率ならびに経皮的動脈血酸素飽和度において, 有意に高い値が得られた. 加えて, 血中乳酸濃度においては通常環境下よりも高気圧高酸素環境下の方が有意に低い値を示した. この結果から, 高気圧高酸素環境下での有酸素運動は, 通常環境下よりも高いパフォーマンスを発揮することができ, 尚且つ疲労の原因となる乳酸を抑制できることが明らかとなった. 現在,多くの日本人トップアスリートが世界の舞台で活躍しているが, このトレーニング法の導入で, 更なる飛躍が期待できると考える. また長期的なトレーニングとして介入することで, 高齢者やCOPD患者など, 自発呼吸での酸素供給が制限されてしまっている人々の筋力向上・維持に活用できる可能性に期待できる.
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