これまでの研究期間のマウス運動実験から、運動後の骨格筋でアポ蛋白C2 mRNAレベルが上昇する結果が得られた。そこで、骨格筋細胞で電気刺激による筋収縮させた運動模倣モデル実験を行い、細胞実験において骨格筋アポ蛋白C2への影響について検討した。マウスC2C12骨格筋細胞(骨格筋分化後)では、電気刺激3日間後のアポ蛋白C2 mRNAレベルは、電気刺激しない群のC2C12骨格筋細胞より約85%減少を認めた。一方、ヒトiPS細胞由来の骨格筋細胞では、電気刺激5日間後のアポC2 mRNAレベルは、両群で不変であった。従って、マウスおよびヒトの骨格筋細胞で電気刺激による運動模倣モデル実験では、生体で得られた骨格筋アポ蛋白C2上昇効果が得られず、この細胞実験モデルはマウス運動実験を模倣した実験系として適していないと考えられた。 次に、血液中の中性脂肪を代謝させ骨格筋へ取り込ませる作用のあるリコンビナントヒトアポ蛋白C2を野生型マウスへ単回投与した群を、リン酸緩衝生理食塩水投与群を対照として、投与後の血中脂質と骨格筋への影響を比較検討した。血液中の中性脂肪は、ヒトアポ蛋白C2投与群で投与後15分から30-50%程度まで減少し24時間まで持続した。一方、投与3日後の骨格筋では、リン酸緩衝生理食塩水群と比較して、ヒトアポ蛋白C2投与群で骨格筋アポ蛋白C2 mRNAレベルが上昇傾向を示した。さらに、中性脂肪を低下させる機能を保持したヒトアポ蛋白C2ペプチドの作製を6種類検討したが、3種類で合成不能、残り3種類で合成可能であったが中性脂肪低下作用が保持されておらず、生体もしくは細胞実験へ応用できなかった。これらの結果を総合すると、ヒトアポ蛋白C2投与は血液中の中性脂肪を代謝させ骨格筋へ取り込ませることで骨格筋脂質代謝へ影響を及ぼし、骨格筋での運動による脂質代謝効果を模倣させる可能性を示唆した。
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