研究実績の概要 |
海馬が司る学習・記憶機能の維持・向上において、海馬内の乳酸利用の重要性が示されている。2型糖尿病に伴う学習・記憶機能の低下に対しても、乳酸利用の低下、とりわけ神経細胞への乳酸取り込みを担う”MCT2”の低下が関与していることが、これまでに示されていた。2021年度は、習慣的な低強度運動が2型糖尿病動物(ob/obマウス)で低下した学習・記憶機能、海馬のMCTsやmiRNAに及ぼす影響を検討し、運動処方の有効性の検討と分子標的の探究を進めた。その結果、習慣的な低強度運動が、ob/obマウスで低下していた記憶機能と海馬Mct2 mRNA量を改善することを明らかにした。miR-Seqにより、海馬内のmiRNA発言を網羅的に解析したところ、2型糖尿病(C57BL/6マウスの安静群 vs ob/obマウスの安静群)により、71種類のmiRNAが有意に増加、77種類のmiRNAが有意に減少すること、低強度運動(ob/obマウスの安静群 vs ob/obマウスの運動群)により、24種類のmiRNAが有意に増加、4種類のmiRNAが有意に減少することを見出した。低強度運動によって発現が反転したmiRNAは、9種類あった(miR-871-5p, miR-200a-3p, miR-200b-3p, miR-322-3p, miR-344d-1-5p, miR-351-5p, miR-429-3p, miR-542-3p and miR-3474)。これらの内、miR-200a-3pはMct2の発現に関わることから、低強度運動はmiR-200a-3p/Mct2の制御を通じて、2型糖尿病の記憶機能を改善する可能性が示唆された。これを標的とした新規処方の開発にも、今後期待される。
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