研究課題/領域番号 |
20K19567
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
田中 嘉法 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 研究員 (40791249)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 骨格筋 / グルコース / 乳酸 / in vivoイメージング / 筋疲労 |
研究実績の概要 |
近年,代謝産物の一つである「乳酸」は筋疲労時に疲労を助長するのではなく,疲労の軽減に寄与していると考えられるようになってきた.本研究は,骨格筋細胞内の乳酸塩の動態を可視化し,持久的な発揮張力との対応関係を検証した.前年度までにおいて,乳酸塩を可視化するために,乳酸塩に反応する蛍光タンパク質をラット骨格筋に発現させるモデルを作成し,持久的な筋収縮を負荷した際の筋細胞内乳酸塩動態及び,筋発揮張力の変化を検証した.その結果,細胞外の高乳酸環境下では,細胞内の乳酸濃度が上昇し,筋発揮張力の低下が有意に抑制されることが示された.疲労の軽減に乳酸が関与している要因としては,乳酸がエネルギーとして再利用される場合に加えて,乳酸塩が筋細胞膜の膜電位に作用し,膜電位の興奮性を維持している場合の2つが考えられる.そこで,乳酸を負荷し,持久性収縮を施した際の筋電図動態を測定した.その結果,高乳酸塩環境下において,膜興奮性の指標として測定した筋電図の振幅の低下が遅延することが示された.したがって,細胞外の高濃度乳酸は,筋線維の膜電位興奮性の維持に関与し,持続的な張力発揮の維持に貢献する可能性が考えられる. さらに,細胞外の高乳酸濃度環境下において,乳酸がエネルギーとして利用される機構を検討した.本研究では,筋内グルコース濃度変化やグリコーゲンの濃度変化は,細胞外の乳酸レベルに影響を受ける仮説を検証した.はじめに細胞内グルコースを観察するために,グルコース感受性の蛍光タンパク質をラット骨格筋に発現させた.本モデルを用いて収縮時のグルコース濃度を測定した結果,強縮時に細胞内グルコースの有意な上昇が観察され,この上昇はグルコース輸送体阻害剤であるサイトカラシンBにより抑制された.現在,細胞内外の乳酸,グルコース動態と筋発揮張力の維持機構との関係性を検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においては,「in vivo環境下での細胞内グルコース観察モデルの確立」の研究課題に取り組んだ. 細胞外の乳酸がエネルギーとして使用されているのかを検証するために,今年度は「乳酸取り込み阻害中の筋発揮張力変化の観察」を計画した.そこで,以下の2つの実験系を考案した.1.siRNAによるLactate/H+交換輸送体 (MCT) の選択的阻害の検証,2.グルコース感受性の蛍光タンパク質による細胞内グルコース動態の検証をである.はじめに,乳酸感受性蛍光タンパク質発現モデルを応用して,グルコース観察モデルの作成に着手した.このモデルの検証として,筋収縮時のグルコース動態および,グルコース輸送体 (GLUT) 阻害剤であるサイトカラシンBを添加し,筋収縮を施した際のグルコース動態を比較・検証した.高強度の連続的な電気刺激プロトコール(100 Hz, 3秒毎,50回,5セット)では,安静時と比較して1セットの筋収縮で細胞内グルコース濃度が有意に増加(36.6 ± 6.1%)し,このレベルが5セット終了時まで維持された.その一方で,GLUT阻害剤であるサイトカラシンBを添加し,筋収縮を施したところ,1セット後の細胞内グルコース濃度の増加は抑制 (5.3 ± 2.4%) された.以上のことから,本研究のモデルにおいて,細胞内グルコース濃度の観察及び,筋収縮中の細胞内グルコースの観察が行えることが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては,引き続き「乳酸取り込み阻害中の筋発揮張力変化の観察」および,「細胞外高乳酸濃度環境下での細胞内グルコース動態の観察」を並行して実施する予定である.特に「乳酸取り込み阻害中の筋発揮張力変化の観察」においては,導入方法は確立していたものの,siRNAによる検証が十分ではなく,最終的なモデルが確立できていない.しかしながら,プロトコールの確立と実験環境がセットアップが完了したため,すみやかに実験を遂行する.また,「細胞内グルコース動態の観察」は,本年度確立したグルコースモデルを用いて,「高乳酸濃度環境下」などの様々な実験条件での検証を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,新規の観察技法の確立や,阻害剤の購入を行ってきた.遺伝子導入に必要な機材であるエレクトロポレーターの選定などに十分な予備検討を実施してきた関係から,当該予算の次年度への繰り越しが生じた.また,学会のオンライン開催による旅費の出費や論文作成費の出費がなかったために,次年度への繰り越しが生じている. 本年度は,エレクトロポレーター,siRNAの購入費や実験動物の購入に多くの費用を使用する予定である.また,学会が現地で開催される予定であるため,旅費を使用する予定である.さらに,最終年度であるため,論文投稿費として使用する予定である.
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