研究課題
代謝産物の一つである「乳酸」は、筋疲労時に疲労を助長するのではなく,エネルギー基質として疲労の軽減に寄与していると考えられるようになってきた.本研究は,この機構を解明するために骨格筋細胞内の乳酸塩の動態を可視化することに着手している.乳酸の代謝は,骨格筋内のミトコンドリアが重要な役割を果たしていることから,筋収縮時のミトコンドリア機能について検討した.前年度に引き続き,ミトコンドリア内のTCAサイクルの酵素活性を制御し,エネルギー調節に直接的な関与が考えられているCa2+に着目した. in vivo環境下でミトコンドリア内のCa2+を観察するために,Ca2+感受性蛍光タンパク質である4mtD3cpVをミトコンドリアマトリックスに局在化させたモデルを確立した.このモデルでは,筋収縮負荷と同期したミトコンドリア内Ca2+の有意な上昇が観察された.この上昇はミトコンドリア内へのCa2+輸送タンパク質であるMCU (mitochondrial Ca2+ uniporter) によって引き起こされていることが,MCU阻害剤(Ru265)を用いた実験で明らかになった.さらに,MCU阻害と張力発揮との関係を調べた. Ru265のloading前,loading10分後,20分後,30分後にそれぞれ,100Hzの強縮刺激を単回施し,最大発揮張力を比較した.コントロール群では,Krebs-Henseleit Buffer (KHB) を負荷した.その結果,コントロール群では,筋発揮張力の低下は観察されなかったものの,Ru265を負荷した群では,約40%の筋発揮張力の低下が観察された.以上のことから,MCU阻害時の筋発揮張力の低下は,MCUによるCa2+輸送の阻害により生じたことが明らかとなり,収縮時のミトコンドリアCa2+濃度の変化が筋発揮張力に直接的に影響を及ぼしていることが示唆された.
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