近年,S-glutathionylation(タンパク質とグルタチオン(GSH)が架橋構造を形成する反応)が骨格筋疲労を制御する重要な因子であることが明らかとなってきた.S-glutathionylationはglutathione-S-transferase(GST)によって触媒される.本研究では,GST活性を変化させる化合物を同定し,それが筋疲労に及ぼす影響を検討することを目的とした.そのために,まず,in vitro系において,GST活性に影響があると報告されている物質を添加し,GST活性を測定した.標的とした7つの化合物のうち,indole-3-carbinolのみGST活性を著しく抑制する効果が認められた.この結果を踏まえ,GSH量を著しく低下させることでS-glutathionylationの低下が筋疲労に及ぼす影響を検討した.実験にはラットを用い,片脚に対して疲労刺激を負荷した.疲労発生0.5時間後および6時間後の筋力および筋の生理生化学的特性を評価した.この結果,GSH量を著しく低下させると,通常であれば回復する収縮終了6時間後の筋力が回復しないことが明らかとなった.また,この原因は筋小胞体のCa2+放出機能の低下が回復しないためであった.以上のことから,indole-3-carbinolがGST活性を著しく低下させること,およびGSHを著しく低下させると筋疲労が長期化することが明らかとなった.本研究では,indole-3-carbinolを投与するまでには至らなかったが,今後,この点を検討することで筋疲労とS-glutathionylationの関係を明確にし,筋疲労を抑制する新たな戦略や筋疲労を利用する方法を考案する基盤ができると考えられる.
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