アスリートの各競技種目に特化した中枢神経系の特徴を明らかにすることを目的として、本年度は、以下のことを明らかにした。 (1)オープンスキルを必要とする野球選手の脳構造をMRIを用いて解析し、運動制御に重要な小脳の白質線維の横断面がクローズドループ競技のアスリートよりも野球選手の方が広いことを明らかにした。これは、密な運動制御を必要とする野球の競技特性が反映しており、野球の長期的なトレーニングによって、小脳を中心としたネットワークが可塑的に強化されたと考えられる。この可塑的変化が野球特異的なものかオープンスキル競技に共通なものかについては今後の検討課題である。 (2)同じクローズドスキル競技において、レースを行うのが水中と陸上という違いがある競泳選手と陸上選手の脳構造を比較した。Voxel based morphometry (VBM) 解析にて、競泳選手群のほうが陸上群よりも小脳、視床下部の灰白質体積が大きいことを示した。また、各群で、競技力と比例して灰白質体積が大きくなる領域を探索した結果、相関関係がみられる領域は競技間で共通ではなかった。これらのことから、競技種目、競技レベルによって脳の可塑性のパターンが異なる可能性がある。 (3)雪上で滑走するという他競技にはない動作を行うスキー選手の脳機能・構造の特徴を検討した。T1強調画像から灰白質構造を解析した結果、左半球の一次体性感覚野において、スキー群のほうが他競技アスリート群よりも有意に大きな局所灰白質体積を示した。また、安静時脳活動から機能的ネットワークを解析した結果、両群間間に有意差は認められなかった。 (4)運動のばらつきに関するトレーニング効果の検討のため、野球選手と陸上選手を対象に、瞬間的な手指力発揮のばらつきを比較したが、群間差は得られなかった。
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