本研究では歩行動作における運動学的要素と,審美性を評価する心理的要因との関係性を調査するため,骨盤の自然傾斜角(腰仙角15~30度)を保ち背筋を伸ばす歩き方をスタイルA,骨盤を後傾させ(腰仙角10度以下)背筋を丸める歩き方をスタイルBと定義し,ウォーキング講師男女各1名の歩行を計測した.歩行計測結果より,実験参加者は本研究において定義したスタイルAとスタイルBの歩き方を忠実に再現していたことが確認できた.計測において下肢の動きに関する指示は行っていないが,2名の実験参加者共にスタイルBでは足先を伸ばし切らず,スタイルAと比較して膝の屈曲,足の背屈を維持した歩き方の特徴が見られた.実験参加者からは「スタイルBにおいては体幹が屈曲し前屈みの状態であったため,バランスを取るために膝や足部を常に屈曲させなければならず,つま先離れなどの局面においても十分に膝関節や足関節を伸展できなかった」という感想を得ており,スタイルA・Bの外見の違いは上半身だけでなく膝からの下の部位の動きにも表れていることを確認した.そのため主観評価実験においては,スタイルA・Bの全身の歩行動画に加え,上半身,膝から下の脚部それぞれの歩行動画を用いて歩行の印象に関するアンケート調査を行った.また,同性へ抱く印象と異性へ抱く印象は異なることが考えられるため,両ウォーキング講師に対する男性からの評価,女性からの評価を分けて考察した.その結果,歩く人・評価する人の性別によらず,スタイルAの歩き方は第三者から見て「健康である」印象が強いことが示された.スタイルAの上半身に対して,第三者は「かっこいい」「魅力的である」「美しい」印象を持ちやすく,スタイルA・Bにおける膝から下の動きについては「好き」「嫌い」といった個人の嗜好が関連しており,屈曲伸展のメリハリをつけた膝・足首の動きは「好き」と評価されやすいことが示唆された.
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