研究課題/領域番号 |
20K19592
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鴻巣 暁 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (80838483)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 予測的姿勢制御 / 大脳―小脳連関 / 運動学習 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
中枢神経系の情報処理は時間遅れやノイズを伴うため、日常動作やスポーツ動作の素早く円滑な実行には予測的な姿勢制御が不可欠である。脳疾患患者の運動分析等により予測的姿勢制御に関与する中枢神経領域が同定されつつあるが、詳細な神経機構は明らかにされていない。そこで、本研究ではラットにおける新規の姿勢制御課題を構築し、大脳―小脳連関の局所的破壊実験および神経活動記録により、予測的姿勢制御の情報伝達・変換機構を解明する。2020年度は実験課題の構築を目的として、後肢により立位姿勢を維持するラットに条件付け刺激とセットで床傾斜外乱を与える実験パラダイムを構築した。さらに、実験結果と「モデル予測制御」を用いたシミュレーションとの比較により、ラットの中枢神経系が獲得する制御則を推定した。そこで、2021年度は本実験課題を用いて、小脳における予測的姿勢制御の責任領域の同定を進めた。体幹部および四肢の筋を制御する大脳皮質運動領野と密に神経連絡する小脳虫部領域を障害した小脳障害群、健常群および偽手術群の運動データを比較した。初回の外乱試行における姿勢動揺の大きさには3群間で有意な差が見られなかった一方、学習速度(傾斜試行を連続して経験することによる姿勢動揺の低下のペース)は障害群が健常群および偽手術群よりも有意に低い結果が得られた。すなわち、研究計画書で論じた「小脳虫部が予測的姿勢制御において中心的な役割を果たす」を支持する結果が得られた。現在、運動学データの詳細な分析と論文執筆のためのまとめの作業を行っている。また、本結果を踏まえ、2022年度は小脳虫部と大脳皮質前頭領域の神経活動の同時記録により、両領域間の神経情報の伝達・変換過程を研究する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は第二の研究課題である「予測的姿勢制御における小脳虫部の役割」の解明を目的として、小脳における予測的姿勢制御の責任領域の同定を進めた。小脳虫部を局所的に障害した障害群では、健常群や偽手術群と比較して予測の学習速度(外乱により直立ラットの腰部および下肢は後方移動するが、傾斜試行を連続して経験することでこの移動量は徐々に低下する。この低下のペースを「学習速度」と定義する。)が有意に低く、研究計画書で論じた「小脳虫部が予測的姿勢制御の獲得に中心的な役割を果たす」ことを支持する結果となった。現在、運動学データの詳細な分析と論文執筆のためのまとめの作業を行っており、2022年6月までに論文投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第二の研究課題である「予測的姿勢制御における小脳虫部の役割」については2022年6月までにデータのとりまとめと論文投稿を行う。これと並行して、第三の研究課題である「予測的姿勢制御の神経機構」に着手する。当初の計画どおり、小脳の中で虫部が予測的姿勢制御に中心的な役割を果たすことが示唆されたため、虫部と大脳皮質前頭領域にそれぞれ電極を配し、課題実行中の神経活動を同時記録し、特定周波数帯域における小脳―大脳間の神経活動同期に着目した分析を行う。また、両脳領域の同期的活動の神経基盤を明確にするため、両領域の中継核である橋核を光遺伝学的に抑制した条件下で神経活動を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度中に投稿予定であった論文は次年度前半に投稿することに変更したため、掲載費および英文校正費を次年度に使用する。
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