本研究の目的は、J.デューイを中心とする米国のプラグマティズムにおける教育論の観点から、体育(身体教育やスポーツ教育を含む)の中にシティズンシップ教育の可能性を探ることであった。本研究で検討した課題は①シティズンシップ教育の定義、②シティズンシップ教育で育てようとする理想の市民像の姿、③シティズンシップ教育を通して理想とする市民を育成する際に体育はどのように貢献し得るのか、以上の3点である。 本研究では、第一にシティズンシップ教育に関する先行研究、ならびに政策文章等の資料を整理することで、シティズンシップ教育の定義を整理した。次に研究課題②を明らかにする上で、デューイの教育論を一つの基軸に考察を進めた。具体的な成果としては、デューイの教育論から読み取れる市民像として、自由の相互承認の感度に裏付けられた民主主義的態度を身につけた市民像を規定することができた。そしてその教育の場として、体育の近接領域である野外教育活動の有効性についても明らかにすることができた。最後に、研究課題③を明らかにする上で、デューイの教育論が日本の体育に及ぼした影響について、特に戦後の民主体育に対する功罪を明らかにすることを一つの基軸に考察を進めた。具体的な成果としては、体育分野におけるデューイの教育論の矮小的解釈についての問題点を指摘し、デューイの教育論を議論する上での前提の定義を再構築することができた。また、シティズンシップ教育と体育との関係を検討するために、体育の独自性である身体育成の側面をシティズンシップ教育の中に位置づけることについても考察を進めた。 研究期間全体を通じた研究成果の公表として、図書2件、論文6件、学会発表5件を発表した。また、本申請による研究成果により、2023年度日本体育・スポーツ・健康学会学会賞、および2023年度日本体育・スポーツ・健康学会浅田学術奨励賞を受賞した。
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